第10話 浅茅生の...(二)
ド田舎の真っ暗闇をひた走る二台の車、街灯も少ないし、ホント恐いのよ。肝試しにわざわざ行こうというヤツの気が知れない。
あれ?でも黒塚なら、いくら肝試しって言っても探せない場所じゃないはずなんだけど。
今の黒塚は大きい橋の近くの普通の道の脇にでっかい木が一本あって、小さな石の碑が草に埋もれてるだけのとこじゃん?橋からだって見えるよね、人がいたら。
「この世の黒塚なら、心配はないが」
て、菅原先生。
わわっ、いつの間に乗ってきたんですか?
「最初からいたわ!」
まぁ?#平野先生__まさかどさん__#の車デカイから、俺が気付かなかっただけ?......イヤイヤイヤ違うでしょ。
面倒くさいから、訊かない。うん。水本もあえてあっち向いてる。俺たち、賢い。
「で、お前たち、『黒塚』の話は知ってるか?」
と?#平野先生__まさかどさん__#
「知ってます。安達ヶ原の鬼婆ですよね」
婆さんが旅人騙して家に泊めて、夜中に殺して肝食ってたって。それを偉いお坊さんが退治したんですよね。
「問題は、その老女が鬼になった理由だ」
と菅原先生。
つまり......
その昔、岩手という女性が京の都の公家屋敷に奉公していた。だが、乳母をしていたその姫は生まれながらにして不治の病におかされており、岩手は何とかして姫を救いたいと考えた。
そして妊婦の胎内の胎児の生き胆が病気に効くという易者の言葉を信じ、生まれたばかりの娘を置いて旅に出た。
奥州の安達ヶ原に辿りついた岩手は岩屋を宿とし、標的の妊婦を待った。長い年月が経ち、若い身重の女がその岩屋に宿を求めた。
岩手は産気づいた女に襲い掛かり、殺害して胎児の肝を抜いた。
だが女が身に着けているお守りを目にし、老女は驚いた。それは自分が京を発つ際、娘に残したものだった。今しがた自分が殺した女は、他ならぬ我が子だった。
あまりの出来事に岩手は精神に異常を来たし、以来、旅人を襲っては生き血と肝をすすり、人肉を喰らう鬼婆と成り果てたのだという。
「うっわ、エグ......」
いくら可愛い姫さまのためとか言っても、人殺すなんて駄目じゃん。しかもずっと会って無かったからって、自分の娘と孫を殺すなんて、そりゃ気も狂うわな。
でも退治されたんでしょ?
「生身はな」
と菅原先生。
「だが、想念は残る。自分の娘を殺してしまった自責の念と後悔と悲嘆とに、まだ囚われている」
けど、今まで何も起こってないですよね。それ奈良時代の話ですよね。
「奈良時代に出刃包丁なんかあるわけないだろ」
あ、そうなんですか?#平野先生__まさかどさん__#
「伝説だが、平安末期くらいの話だろうな、実際は。飢饉もひどかったし、何らかの理由で人を殺めていたのが、自分の娘まで殺めてしまって、狂った.......てのが本当だろうな」
うわ、悲惨。でもなんでそれが......。
「母の思いもあれば、娘の思いもある」
菅原先生、それどういう意味ですか?
などと言ってるうちに現場到着。誰もいない。
「おい、あんなところに家あったか?」
水本の指差す方を見ると、ボロい家にほんのり灯りが点いてる。
まさか......
「浅茅ヶ宿だ。乗り込むぞ!」
ま、待って下さい。#平野先生__まさかどさん__#、もろ鬼の棲み家でしょ。ヤバくないすか?
「仕事だろ、お前!」
って、そんなぁ......。
首根っこ捕まれて、突っ込まれた先には、壁際に立ちすくむ、顔色真っ青な篠原、とあと二人は床に倒れてる。血は出てない。気絶してるだけか。
そろそろとそちらに歩み寄る。
「危ない!コマチ!」
水本の声に振り向くと、包丁振りかざした婆さん。
ニンマリ不気味に笑って、俺の背後から襲いかかる...ところを水本の手が、がっつりその腕を掴んで押さえた。
「逃げろ!コマチ!」
水本の声に弾かれたように外に駆け出す俺。水本の手を振りほどいて襲ってくる婆ぁ。
焦って車の方に走ろうとしたら、車がいない。いないだけじゃなくて、景色が違う。橋も無いし、道路も無くて一面、草っぱら。ウッソーーー!
「イテッ!」
石に蹴つまづいて転けた俺の真上から婆ぁが包丁を振りかざす。
ヤバい。もぅアカン。
父さん、母さん、ごめんなさい.....。
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