第8話 筑波峯の...(二)

 と言う訳でやってきました、山のなか。

 現在は巨大なダム湖になっていて、真ん中に大きな橋がかかってる。

 かなり有名な観光スポットらしい。いっぱい止まっている車の中になんとか駐車して、てくてく歩く。


 で、なんか橋の真ん中あたりが異様に盛り上がってる。何?


「あぁ、バンジージャンプ出来るんですよ?やっていきます?」


って案内所の、元お姉さん。


バンジージャンプ?


あのTV でよく見る、お笑いの罰ゲーム?


本当にやる人いるの?


と思ったら、本当にいました。


 橋の真ん中辺りから、嬌声上げてダイブしてるのは、なんと若いお姉さん。


うっそー!


 そりゃ命綱は着いてるけど、相当高いのよ、橋。下見るのさえ怖いのに。


 で、ボートに拾われて、ニコニコして、こっちに大きく手を振ってる。どんだけ肝っ玉太いのよ。女は強い。


 俺たちは、次々に上がる歓声やら嬌声を無視して橋を渡る。

 本当に見るのもコワイから、そそくさと通り過ぎて、ダム湖の奥に続く遊歩道を進みます。


 でも、ダム湖とはいえ、本当に大きくて水も綺麗。

 周辺は連なる山の緑が眩しい。

 本当に龍神がいそうな景色。


「まぁいるからなぁ~」


と#平野先生__まさかどさん__#。

 え?龍神て本当にいるの?


「まぁ見るヤツのイメージの投影だけどな。デカイ自然エネルギーの固まり......かな」


あ、そうなんですね。

だから台風とか洪水の元みたいに言われるんですね。

 確かに膨大な自然エネルギーですもんね、台風とか。


「まあ、地脈とか水脈、気脈の象徴でもあるけどな」


と、#小野崎先生__ごせんぞさま__#。つまり『流れ』なんだそうです。地中の奥深くだったり、大気だったり。なるほどね。科学的な解釈ステキ。存在は科学的じゃないけど。


 そして、ずーっとずーっと歩いて、アスファルトの道が無くなって、滑落しそうな細い尾根道を越えたころ......。


 ありました源流。

 

 名前は亀が淵。


 虫の声とせせらぎだけが聞こえて、とても静かです。


 でも、どうやって探すん?



と思ったら、水本の腕からウサギが飛び出して、淵の際でぴょんぴょん飛び跳ねてる。


「ダメだよ、危ないよ」


 叫ぶ水本。うん、そうだよ危ないよ。ほら水がザバーって......。て、えぇーっ!



 淵の中心がいきなり盛り上がって.......。


 り、龍神?


 ウソー!


 自然エネルギーって言ったじゃない、先生。


「バカ!よく見ろ」


 #平野先生__まさかど__#さん、首根っこ掴むの止めて。馬鹿力なんだからっ!


 あれ......?


 ひぃひぃしながら、淵に目を凝らすと、龍神と思ったら人でした。#平野先生__まさかどさん__#といい勝負の厳ついオッサン。


 それだっておかしいでしょ。

あそこ、淵の真ん中だよ、水深十メートルじゃきかないんだよ。


ー太郎どの~!ー


 固まっている俺たちの目の前、ウサギさんが、ふぉんと若侍の姿に戻る。んでもって、淵の中のオッサンめがけてジャンプ!


ー平四郎どの!ー


 しかと抱きしめるオッサン。

 へー幽霊って溺れないんだ。って何を見せられてんの?俺たち。


なんも食べて無いのに、すんげえ甘いんですけど。そこの水、飲んでいい?


『義重、己のが未練も癒えたであろう』


 半ばドン引きながら、#平野先生__まさかどさん__#


『早う役目につけ』


ー共にあれるなら......ー


 じぃっと見つめ合う男ふたり。

若侍ー#盛隆__もりたか__#様が、そうと知らなきゃ男に見えないくらいの美人だから、まあ、見られなくはないけど。


 ねぇ、純情な青少年には目の毒なんですけどぉ?


『早くせぬか』


あ、#小野崎__ごせんぞ__#さん、キレた。


 それでも、オッサンは余裕。

 若侍さんの髪を撫でて......え?若侍さんの姿が消えて、オッサンの掌にキラキラ光る虹色の玉。


 そして......

 

 オッサン、つまり佐竹義重さんはふぉんと姿を変え......。


 龍になって......。


 片手に#盛隆__もりたか__#さんの宝玉を握りしめて......。


 天に昇っていきました......。




 

.............自然エネルギーって言ったじゃん、先生!



「例外もある」


って、マジっすか!?


「まぁ上がったんだから、いいじゃないすか」


と#牛頭__あか__#さん。


 水本は......完璧に固まってた。けど、何、目をキラッキラさせてんの~!?


「で、弟子にしてください!」


 おいおい、何言い出すの!?


#平野先生__まさかど__#さん、呆れモードで溜め息。


「まだ凝りてないのか.....」



 なんとも言えない顔の#小野崎先生__ごせんぞさま__#に、水本の前世が仙人志願だったと聞くのは、その後の話。









ー筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬるー

 

(陽成院 百人一首 第13番『後撰集』恋・777)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る