チビ豚ロンダリング

いよいよだ。とうとうこの時がやって来た。

私は胸を高鳴らせながら、両手に抱え持つ豚さん貯金箱を見る。

100円玉がぎっしりと詰まった陶器の豚はずっしりと重い。――中には100円玉がかっきり300枚、金額に換算して3万円が入っている。

私のような一般家庭の小学生にとって3万円は大金だ。このお金は、私が約3か月もの間来る日も来る日もおやつを買うのも我慢しながら、家の家事を手伝って地道にコツコツと貯めた、いわば汗と涙の結晶だ。

「よし、これで……やっと!」

ずっと欲しかった最新のゲーム機『ヌンテンドー・スイッチ』が買える!

お父さんもお母さんも、私がゲーム機を買うためにどれだけ頑張って貯金していたか知っているから文句は言わない。

それに……ヌンテンドー・スイッチなんてクラスの誰も持ってない。そんなものを私が手に入れたとみんなが知ったら、どんな顔をされるだろう! みんなに自慢するのが楽しみでならない。

私はフローリングに新聞紙を敷き、その上に豚さん貯金箱を丁重に載せる。

豚さん貯金箱はきれいなピンク色で、瞳はくりくりしていてとても愛らしい。――3万円が溜まった日に壊さないといけないと最初から分かってはいたが、いざ実際に壊す段になると可哀そうになってしまう。

「ごめんね……」

それでも、やらないといけない。――私は豚さん貯金箱の頭を撫でた後、手にしたトンカチを大きく振り上げた。


「やめて!! ぶたないで下さい!」


突如、甲高い悲鳴が辺りに響き渡る。

「……え?」

私はトンカチを握ったまま硬直する。

……誰? 誰の声? この家には両親と私と弟のケンジしかいないけど、今のは彼らの内の誰の声でもない。まさか、ドロボー?


「お願いです! 僕はこんな貯金箱ではありますが、それでも生きているんです! どうか乱暴しないで下さい!!」


先ほどのキンキン声が再び鳴り響く。


「………」


「おねがいです。……ぶたないで?」


かわいらしい声がはっきりと、そう言った。


私はピンクの豚さん貯金箱をまじまじと見る。

――その、ぽろぽろと涙をこぼすつぶらな瞳を。


「う……噓でしょ?」


この貯金箱……どうやら最悪のタイミングで魂を宿してしまったらしい!


「どうすんのよ……割れなくなっちゃったじゃん! うわぁあああああん!!!」


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