第99話

「そうなの。日記を付ける事を知らなかったのね。」


「はい、魔法学園に通っていましたが、その様な事を聞いた事もありませんでした。」


「リズ、国によって、違うのかもね。そんなに、ショックを受けなくても良いわよ。

だって、日記を毎日つけるなんて、面倒だもの。

文字を覚えた頃は、文字を書く事が楽しくて、書いていたし、学校に通う頃は、恋の事を書いていたくらいだもの。


日記は、自分が読み返すだけで、良いのよ。ほら、残しておいて、他人に見られたくないでしょ。


リズは、書いて無くて良かったのよ。」と笑顔を向けて来る。


「書いて無くて良かった?」


「そうよ、もし、書いていたら、今日の事を書くでしょ。

ほら、スチュアート様とデートとか、叔母様が来たとか、ね」


「スチュアート様とデートでは、無いです。たまたま、庭に出る時が、同じで、別の処でバラを見ていて、帰る時間が同じだっただけです。

決して、デートでは、有りません。」と言うと。


「そうなの。寮母さんが、同じ時間に出て行ったと言っていたし、戻りも同じだったから、付き合っているかと思っていたのに。」


「ローレッタ様、これだけは、言えると思います。スチュアート様だけは、付き合うと言う事は、無いと思います。」


「そんなに、断言しなくても良いのでは、スチュアート様が、思いを寄せていたら、可哀そうよ。」


「魔法学園での出来事を考えると、無いです。

そして、アトウッドキャクストン国の国民として、第二王子と同じ庭に居た事は、光栄に思えるだけです。」


「リズ、カポーティブレナン王国の王女よ。決して、トウッドキャクストン国の国民では、ないわ。」と厳しく言った。


「リズ、貴方は、カポーティブレナン王国の王女よ。スチュアート様は、アトウッドキャクストン国の第二王子。

政略結婚も視野に入れても可笑しくはない、状況よ。


ただ、貴方は、それを望まないでしょ。


それに、貴方が、ゴールドスター・クレスト王家の紋章の者として、認められたのが、数日前、だから、誰も何も言わないの。


国王を始め王家の人達は、リズが戻って来た事を喜んで、手元から離す事をしないと思うけれど、家臣たちはどうかしら?

アトウッドキャクストン国との関係を強固にしたいのならば、王女との婚姻を押す者もいるでしょうね。


だから、今のリズの立場を忘れないで欲しいわ。」と諭す様に言う。


「そうですね。エリザベスとして、この国に残っているのですから。すみませんでした。」と頭を下げた。


「リズ、解れば、宜しい。

では、次に、この王家の部屋のもう一つの秘密は、通学に使うのよ。」


「それは、聞きました。王宮とこの部屋で転移魔法を使って毎日通うと聞いています。」


「はー、誰に、折角、リズに教えて、驚かそうと思ったのに。

リズは、転移魔法は使えるの?」


「はい、近くだたら、使えます。でも、王宮までは無理かなと思っていました。」と話していると、ウォーリーがお茶を持って来た。


ローレッタは、ウォーリーの出したお茶をゆっくりと口にしながら、

「リズ、毎日の通学が大変だろうけれど、ウォーリーが居れば大丈夫ね。」と微笑んだ。


「ウォーリー、リズの事を頼むわ。まだまだ、王族としての自覚が、少し足りないの。寮での事は、頼んで置くわ。」


「はい、ローレッタ様、王妃アレクサンドラ様からも頼まれております。」


「ウォーリー、馬車を外に待たせているの。王宮へ戻る様に伝えて、私達は、転移魔法で王宮へ戻るから、お願いね。」


「はい、伝えて参ります。ローレッタ様とリズ様はこのまま王宮へ戻られるのですか。」


「そう、このまま、戻って、夕食とリズは、魔法の訓練が有るはずよ」


「解りました。」と言って、ウォーリーは部屋を後にした。


「リズ、では、王宮へ戻りましょう。」と王族専用の部屋に入る。


「ほら、リズも一緒よ。入ったらドアを閉めてね。」と言われ、部屋に入りドアを閉め、振り返ると、王宮の自室に居た。


「・・・・」


「リズ、驚いたでしょ。転移魔法よ。ドアを閉めて、振り返ると、自分の部屋だものね。

そして、この部屋のこのドアを開けて、入ると、寮に戻れるの。

ドアノブを持っている人の部屋に戻れるの。」


「では、ローレッタ様では、どうなるのですか?」


「寮の部屋からは、私の王宮の部屋に戻れるけれども、私の部屋からは寮には行けないの。だって、あそこの部屋は、もうリズを認識しているから、私は、拒否されるのよ。」と笑っている。


「寮の部屋の秘密ですね。でも、良かったです。王宮から突然、部屋に転移魔法で来られても、困りますから。」


「困る事が有るのかしら?」


「ないと、思いますけれど。」と二人で、笑った。


夕食の時間だと、侍女が呼びに来たので、食堂に向かうと、ローレッタは、自分の部屋に食事を運ぶ様に指示を出していた。


「ローレッタ様は、一緒に食事をされないのですか?」


「多分、今日が、初めてじゃないかしら?」


「何がですか?」


「国王の家族だけでの食事。だから、邪魔をしたくないのよ。」


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