第74話

「本当に、公爵家のご当主なのですね。」


「そうですよ。半年ほど前に、先代のご当主様が、マティー様に譲られたのですよ。」


「先代のご当主様は?」


「マティー様のお父様ですよ。今は、領地の方で、仕事をされていますよ。」


「それでは、マティー様は、忙しいのですね。ケイトに、関わる暇などないのに、ご迷惑を掛けているのですね。」


「いいえ、ケイトさんが、居たからこそ、マティー様はご当主に成る事を承諾されたのでしょう。」と言いながら、遠い眼をしている。


「デビー」と執事のフィリップが、呼んでいる。


「ケイトさん、ゆっくり食事をされてくださいね。

ハンナさん後は頼みますね。」と笑顔で、会釈し部屋を出て行った。


(マティーは、半年前に公爵を継いだのね。公爵家の仕事もあるのに、ケイトの事で、振り回す訳にはいかわね。

でも、何故、ケイトが居たからなのかしら?)


「ねえ、ハンナ、マティー様は、忙しいのよね。

あたしは、マティー様の事を何も知らない。

マティー様に聞いても、あまり教えてくれないの。」


「ケイトさん、マティー様は、その内に色々な事を教えてくださいますよ。

ケイトさんが、もう少し大人に、なったら、話すと思いますよ。」


「ねえ、ハンナ、午後にマティー様とお茶をするの。

お願いなんだけど、少し、大人っぽくしてもらえないかしら。」と微笑んで見せる。


「ケイトさん、大人っぽくですか?」少し、不思議そうにしている。


「うん、少しだけでいいの。」


「はい、解りましたよ。少しだけ大人っぽくですね。」と微笑みを見せる。


午後、マティーが戻って来て、お茶を庭ですることにした。

ハンナに頼んで、少しだけ、大人っぽくしてもらった。

ワンピースも、落ち着いた、深いグリーン。髪は下ろして、サイドだけを上げ、髪留めで留めている。


マティーは先に庭で紅茶を飲んでいた。

「マーぷ、待たせました。」とほほ笑んだ。


「おっ、ケイト、少し大人っぽいな、ハンナに、頼んだのかな?」と笑っている。


「そう、どうして、直ぐに解るの。つまんない。もう少し褒めて欲しいんだけど。」


「ケイトは、可愛いよ。だから、色々と心配なんだけど。」


「ありがとう。マーぷ。」と言っていると、ケイトの所にも紅茶が運ばれてくる。


「ねえ、マーぷ、誰にも聞かれたくない、話なの。」と言うと、マティーが、防音結界を張った。


「これで、大丈夫だよ。昨日の話だろ。ケイトの気持ちは落ち着いたのかい。無理に話さなくてもいいんだぞ。」


「無理は、していないわ。ただ、どう話せばいいのかを悩んだだけなの。」


「どう話せばとは?」


「マーぷ、ダンフォース皇子から、聞いた話では、14年前、カポーティブレナン王国では、政権争いがあったと聞いたの。マーぷは知ってる?」


「隣国の事だから、詳しい情報は、知らないな。」


「その政権争いで、ダンフォース皇子の妹エリザベスが巻込まれたそうなの。」


「妹が、政権争いに巻込まれて、どうなったんだ。」


「行方不明になったそうよ。」


「行方不明にね、幾つだったんだ。」と不審そうに聞いてくる。


「生まれたばかりだったそうよ。」


「ケイトと同じ年だと言う事だね。」怪訝な表情になった。


「そうなの、私と同じ年よ。」


「ケイト、ダンフォース皇子の妹の瞳の色は?」


「私と同じ赤色よ。」


「ケイト、少しだけ、待っていてくれ。持ってきたい物がある。」と言って、マティーは席を離れた。


暫くすると、マティーの手には、ケイトが、拾われていた時の、御包みや身に着けていた、服を持って来た。


「ケイト、待たせたね。これは、君が、拾われた時に、身に着けていた物だよ。それに、拾われた場所は、カポーティブレナン王国との境に森だ。ダンフォース皇子と話していたのは、もしかして、この事だろ。」と寂しげな表情になった。


「ダンフォース皇子は、ケイトをリズと呼んでいたの。カルヴィン様が、魔法学園に留学したのも、そのエリザベスを探す為、だったらしいわ。

私の瞳の色で、拾われた状況も聞いたと言っていたの。」


「やはりな。」


「やはりって、どういう事?」


「ケイトの事を聞きまわっていると、ギル村長から話が来ていたんだよ。

それに、教会にも聞きに来たとね。


ただ、可笑しな事だけど、僕の処には、何一つ、聞きに来ていないんだよね。」と不審を抱いている。


「そだったの。それは、カルヴィン様が、聞いていたと話していたわ。それで、ケイトが、エリザベスだと思って、ダンフォース皇子が、外遊と言う形で、見に来たのだと、話していたの。」


「ダンフォース皇子は、ケイトが、エリザベスと言う事を、確信したわ。だから、リズと呼んだのよ。」


「なら、何故?カルヴィンは留学の続行になるんだ。」


「私が、学園を卒業するまでは、アトウッドキャクストン国の平民として生きると言ったからよ。


そしてね、カポーティブレナン王国に、スチュアート王子とマーぷと私を招待するそうよ。


ダンフォース皇子が、マーぷにだけは、この事を話す様に言っていたの。


言われなくても、マーぷには言っていたけれどね。」と目を伏せた。

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