第67話

「ケイト、他にも何かあったのかい?」

優しい眼の中に、寂しさが見える。


「マーぷ、あたしね、考えたの、拾われてからずっと、幸せだった。平民として、一生を終えるはずだったのに、両親が亡くなり、王都に来て、魔力を持っている事が、判ってしまって、この魔法学園に通う事になったけれど、マーぷのおかげで、ケイトは、学園生活も無理もなく、出来ているの。


カルヴィン様が言ったように、もし、誘拐された赤ん坊なら、それだけの、価値があったという事よね。


でも、ケイトは、今の生活が良いの。でも、学園を卒業すれば、仕事をしないと、生活は出来ない。


魔法学園を卒業すれば、平民としての生活は難しいと思える。

だから、魔法と魔力を使って、仕事があればなぁと考えているわ。


それも、出来れば、カルヴィン様に気付かれない所で仕事を探したいの。


昨日の夜は、その事を考えていた、カルヴィン様と関わりあいたくないの。もし、血の繋がった両親がいたとしても、会いたくないな。

育ててくれた、両親に悪いもの。」とほほ笑んだ。


「ケイト、君が拾われた時に、アトウッドキャクストン国で、誘拐も、未婚の貴族令嬢の出産もなかったよ。

それは、この国での話だ。


隣国のカポーティブレナン王国での事は、判らなかったよ。

カルヴィンは、カポーティブレナン王国の宰相の嫡男だよ。急に隣国の魔法学園に留学しにきたのか解らなかったが、今、ようやく、分かった。

目的は、ケイトだった。


多分、アトウッドキャクストン国もカポーティブレナン王国も、魔力を持っていれば、学園に入学する事になっているからね。


探していたんじゃないのかな?

カルヴィンが、留学で来ていたとしても、ケイトが魔力の枯渇で瞳の色が変わらなければ、見つけられなかったはずだよ。

それでも、学園に留学させてまで、見つけようとしていたんじゃないのかな?」


「マーぷ、それは、ケイトに、血の繋がった親に会えといってるの?」


「会えとは、言っていないけれど、宰相の嫡男を隣国に留学させてまで、探すって事は、大変なのだよ。その事を考えれば、一度は会ってもいんじゃないかなぁと思うよ。」


「でも、会ったら?どうなるの?ケイトは、出来れば、平民で生きていきたいの。マーぷが、お嫁さんにしてくれるなら、話はべつだけど。だから、魔法学園を卒業したら、カルヴィン様にわからない様に仕事をしたいの。」


マティーが寂しそうな表情に変わっていった。


「ケイトの気持ちは、解ったよ。

カルヴィンから、話があったら、今は、血の繋がった親に会う自信がないと言っておくよ。」


急に抱きしめて、ケイトの顔が、マティーの胸にあたっている。

そして、頭の上からマティーの声がする。


「ケイト、僕に、お嫁さんになりたいって言うのは、小さい子供が父親に言う言葉だよ。


ケイトは、心の成長の時に、バードが亡くなり、レスもすぐに亡くなった。悲しむ暇もないくらいに、無理をして、大人になろうと、多分、泣く事も我慢したのだろう。


ケイト、無理をしなくていいんだ。

泣きたい時に泣いていいんだよ。マーぷが、受け止めるから。


なあ、ケイト、大人になる前に、自分がどうしたいのか?どうすれば良いのか?解らない時期があるんだ。人によっては、早かったり、遅かったり、気付かなかったり、人それぞれにある。


そして、どうして?何故?と訳の分からない憤りが、あるそんな時もあるんだよ。その全てをマーぷが、受け止めるから、何でも話をしてくれ。


それは、バードもレスにも出来なかった仕事だからね。」

マティーが、強く抱きしめて来る。


(マティーにとって、ケイトは、子供なのね。


でも、あたしは、無理をしてたのかな?マティーに心配かけるほどに、無理をしているつもりはなかった。


この身体は、赤ん坊の時には、赤ん坊の仕草しか出来なかったわ。今は何でも出来る、でも、もしかして反抗期?いや、違うでしょ。ただ、マティーが、年齢と言っている事に照らし合わせて、反抗期と思っているだけよね。

だけど、反抗期って自分では、気付けないのよね。)


「マーぷ、解ったよ。大丈夫だよ。無理はしないから。


それに、マーぷのお嫁さんになりたいのは、半分本当だよ。大好きだもの。もう少し、大人になったら、マーぷのみたいな人を恋人にするからね。その時は、紹介するよ。


ただね、マーぷ、血の繋がった親だと言って会って、違っていたら?ショックでしょ。

それに、本当の親だったとして、カポーティブレナン王国に連れていかれて、マーぷ達に会えなくなるのは、嫌なの。」


マティーの腕が身体からやっと離れた。

ケイトの顔をじっと見て、


「カルヴィンと、今度、話してみるよ。ケイトと同じ瞳の人の話と、ケイトが、魔力の枯渇で瞳の色の変化をした事はどうしてなのかとね。ケイトの学園生活も後、一年だね。その後の進路は、カルヴィンに教えない様にするよ。それでいいんだろ。」


「うん。学園にいる間は、仕方がないけれど、クラスが一緒でも、そういう話は出来ないから、いいの。でも卒業してから、来られたら、断れないでしょ。だから、教えないでほしいだけなの。」


「その事も踏まえて、マーぷに任せてもらうよ。」にっこりと笑わらった。


「お願いね。マーぷ、大好き」と言って、頬に口づけをした。

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