第5話 

マティー神父は一人執務室にいた。

3人と赤ん坊が出て行った部屋の防音結界をそっと解除した。

一人、執務室で、先程の事を考えていた。


ギルと赤ん坊を見て、厄介事だと思って、防音結界を張ったが、正解だったかな。


バードとレス二人の間の子供のケイティの事は、本当に不幸な出来事だった。

生まれて来たばかりの赤ん坊の突然死。

滅多にある事ではないが、どんなに気を付けていても、起こってしまう。どうにもならない事だった。

長い間二人には、子供が出来なかった、やっと出来た子供だった。

レスは、妊娠中から、体調を壊す事が多く、二人目は無理だと告げられていた。

だからこそ、バードもレスも妊娠中から、とても大切にしていた。

ケイティが生まれ、バードもレスも喜びは凄かった。

神父の僕の所に、村の人まで報告に来たくらいだった。

しかし、ケイティの事は、二人とも、事実を受け入れず、葬儀も、ギルと村のみんなで行った。

そんな二人が、やっと、昨日だった、ケイティの死を受け入れ、教会に報告とお墓に、行ったのは。


しかし、今日は、レスの腕の中に、ケイティではない、赤ん坊が抱かれていた。

何処で攫ってきたのかと思ってしまった。

髪の色は、レスの色のブルー

瞳の色は、バード色の赤色だ。

どう見ても、自分達の子供だと言わんばかりの色だ。


それに、赤ん坊の身に着けているのは、どう見たって、貴族の子供の物だろうと気づく。

だから、防音結界を張ったのだが、話を聞いてみると、昨日の帰り道で、赤ん坊を拾ったと。自分達への神様からの贈り物だと言う。

今、この国では、貴族の子が攫われたと言う話は聞かない、そして、未婚の貴族女性が子供を産んだと言う噂もない。

それにしても、拾った場所が、隣国との境の、森の入り口だった。

多分、村長のギルは、もしかしたら、隣国の貴族の子供かもしれないと。

隣国の情報までは、入ってこないから、仕方がない。

ただ、魔力を持っていると、後々が面倒になってしまう。


バートとレスにすれば、神様からの贈り物に違いない。

自分達が育だてると決めていた。

育てるのはいい、問題は貴族の子供で、魔力が強い時だ。


彼らは、貴族の子供は全て、魔力検定で魔力ありになると思っている。

そして、貴族の赤ん坊だと確信しているから、相談しに来たのだろう。

魔力検定の時には、魔力なしの判定をして欲しいと、頼みに来たんだと。


ギルが、僕に頼み込めば、何とか、魔力検定をごまかせると思ったのだろう。

わざわざ、生まれてばかりだろうと思われる赤ん坊を連れてきたのは、時間の余裕があるから、それまでに、水晶に細工が出来るのかを頼みたかったのだろうと思う。

水晶に細工などは、出来ない事だ。

しかし、村の水晶なら大丈夫だろうと高を括っていた。

5才の時の魔力検定の事を。


魔力検定の水晶の秘密は、王族と教会の一部しか知らない事だが、田舎の教会の水晶の魔力検定の検査値は、緩くしている。多少の魔力があったとしても、反応はしない。

魔力の暴走を起こす事も無いからだ。


それは、平民でも、少しの魔力を持っている者はいるが、全てを王都の魔法学園へ入学をさせるのは大変だからだ。

魔力を持っていると義務として、入学するが、平民は基本、無料だ。

魔力暴走を起こす事が、無ければ問題は無いから、ある程度までの魔力量は、水晶は反応しない様になっている。


それに対して、貴族は、魔力を持っていて、当然、持っていないと、貴族の扱いは低くなる。

だから、魔法学園に入学させることがステータスとなっている。

貴族は、魔法学院への有料でも、入学させたがる。

だから、王都の教会の水晶は、少しの魔力でも感知できるようにしている。

まあ、今は、貴族でも、魔力量が少ない者も多い事も事実だ。


ケイトを抱き上げた時に、村の水晶の魔力検定で、ちょっと反応する魔力を流してみた。

貴族でも、魔力量が少ない者も多い、それに、捨てられていたのなら、魔力は少ないだろうと、少しの興味だった。


でも、直ぐに大変な事に気が付いた。

魔力が流れて違和感があったのだろう。ケイトは泣いてしまった。


僕は、ケイトに『これが、解るのかい? そうか。安心をしなさい。ケイトと僕の秘密だよ。』と言い、抱いていた、ケイトをレスに渡した。

僕の腕から、レスに渡すと、ケイトは直ぐに泣き止んだ。

やはり、魔力の流れが分かったのだと確信をした。


ケイトを泣かせた事で、バードもレスも怒って警戒をさせてしまった。


村の水晶に反応してしまう魔力量は多分に持っている事が解る。

ギルが、村の水晶が5年後に壊れるって、言っていたが、魔力を持っていても、少しなら反応しないから、さっきまで、高を括っていた。

少しの魔力量では、反応しないだから、壊れたと言っても、不思議ではないと思っていたかだ。

しかし、ケイトの様子だと、完全に反応するレベルだろう。

本当に壊す訳にはいない。細工も出来ない。

完全に承諾したわけではない、などと言えないな。

対策を立てなければ・・・・

まだ、時間はある。5年後までにだ。


神様からの贈り物・・・ 一体どうやって、魔力検定の判定をごまかせるか考えなくては。


まず、思いついたのが、身に着けている物を隠す事だ、調べれば、貴族だと言う事が直ぐに、ばれてしまうからだ、これは、僕が預かる事したから、多分大丈夫だろう。


次に、週に1日、僕と会わせると言う事だ。

それは、魔力量を調べる事。

そして、魔力検定の時に、魔力量を減らして、検定を受けさせる準備をすることだった。

魔力量の一時的な減少をさせる、小さい子供には、難しいだろう。地道な訓練もだが、環境に慣れ指す為にも、週に1日来る事を提案した。

神様の贈り物・・・ 好都合な言葉だった。


次に、本来の目的の識字率の向上だ。

折角、ケイトが来るのだから、子供たちを集めやすいから、ギルに提案した。

この村は、文字を書けない人が多い、その為に、僕は、文字を教える為、赴任させらた。

領主のバルフォアボール辺境伯の依頼ではあったが、アトウッドキャクストン国の中で、最低だった。

アトウッドキャクストン国の人々は、文字を書ける事が普通だ。

なのに、この村だけは、文字を書ける人が異常に少ない。

その事に気付いた、辺境伯が、教会に依頼してきた。

本来なら、他の神父が赴任するはずだったが、辺境伯であるアイザックが、僕が、神父として教会に居たことで、僕に頼みたいと言ってきたからだ。

辺境伯のアイザックとは魔法学園の仲間だった。

学生の頃を懐かしく思い、つい、承諾してしまった。


運命?

僕が赴任していなければ、ケイトの魔力判定の魔力なしは無理だったろう。

其れこそ、水晶の秘密は、教会でも一部の人間しか知らない事だし、魔力を持っている神父などは数少ない。


ケイトの魔力判定までは、確実にここに居なくてはいけなくなったな。


それに、バードとレスの気持ちを考えると、魔力検定で、魔力なしの判定が出ればよいのだが、もし、ケイトが魔力検定で魔力ありの判定の時は、魔法学園に行く事になるだろう。

文字も覚えて、ある程度の魔法が使える様にしておけば、ケイトも、学園に入っても、苦労はしないだろう。


一瞬、不安が過った。

ケイトの魔力次第では、隠し切れないかもしれない。

その時、どのようにすれば良いのかも、考えておかなければならない。

貴族・・・ 面倒だ。

バードとレスの様に平民で、暮らせるのが、良いだろう。


辺境伯のアイザックには、一応は、黙っておこう。

教会にアイザックが来ない事を祈ろう。




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