第37話

マティーが王都に行ってから、もうすぐ、一年が過ぎようとしている。


マティーが、誕生日プレゼントと言ってくれた、魔法の中級の本、やはり、翻訳が大変だった。

教えてくれる人も、いない。一つの魔法を読むのに三日かかる時もある。

中級だから、それも当然なのだろうと。

時々、投げ出したくなる時もある。そういう時には、初級の本を読んで、『ケイトは、理解できたんだね。一人でできたんだよ』と褒められた事を思い出し、私は出来る子なんだから、と自分に言い聞かせ、中級の本に向かい読んでいる。


マティーは、ケイトが、一人で出来ると思って買ってくれたんだ。中級魔法の本、ゆっくり進めればいいんだ。だって、魔法学園に入学するわけではないんだから、慌てる必要はない、知っていて、損はない程度でもいいんだよねと、たまに、魔法を使って、魔力量を減らしている。


マティーが言っていた、体内に魔力量が増えると、体調を崩すから、たまに、魔法を使って、魔力量を減らす様に気をつけなさいと、今日は、最近、やっと覚えた、防音結界魔法を使って、結界を張ってみた。


プールス。シールド防音結界」小さな声で、詠唱を唱える。

「部屋の外の音が聞こえる、ってことは、中の声も聞こえるのよね」


家の外で、大声がしている。いつもは、静かな時間なのに、男の人たちの怒号が聞こえてくる。


ドンドン、ドンドン 荒々しく、家のドアを叩いく。


「ケイト、居るか? 開けるぞ」バタンと手荒くドアが開けられた。


「ジョンおじさん・・・・」

隣のジョンおじさん、いつもは、穏やかで、物静かなおじさんが、ケイトを見つけるなり、手荒く手を引き、外に連れ出した。


「おじさん、手が痛い。」

「ごめん、早くするんだ。走るぞ!」

いつものおじさんの様子とは、違う、何かあったののだろう。

森に向かい、走る。ジョンも何も言わずに、ひたすら、走った。


(今日は、ジョンおじさん達と森に行ったはず。あれ?バードは?)


途中、レスも同じように、走って、森の方に向かいっている。


「お母さん・・・・」息が苦しくて、何も言えない。

「ケイト・・・・」


着いた先は、ケイトが拾われた、森の入り口だった。


そこに、バードが地面の上に横になっていた。

「「!」」必死に駆け寄る。


バードは寝ているようだ。

「お父さん起きて」「バード、こんな所で寝ないの」

揺さぶっても、起きてくれない。


「父さん」「バード」何度も何度も、揺さぶりながら声をかける。


(そうよ、今よヒールを使うのは)

揺さぶりながら、ヒールと何度も何度も回復魔法をかける。

バードは動かない。


「父さん、起きてよ、早く起きって、父さん、父さん・・・・」

レスの鳴き声が、聞こえる。

「バード、どうして・・・・」


周りに居た、村の男達は、涙を流しているだけだった。


ジャン達と一緒に森に入り、冬の準備の薪を集めていると、急に魔物が襲ってきたと、バードは、ジャン達を逃すのに自分が囮になった事を話してくれた。

バードが囮になってくれたお陰で、自分達は、生きてこの森から出られたと。


バードの遺体は、教会に運ばれ、ケイトも、レスもバードの傍について行く。


教会に着き、バードの遺体を礼拝堂に安置される。

ドミニク神父とギル村長は、事の次第をジャン達に話を聞き、バードは、村の葬儀になった。


「ケイト・・・・、」ドミニク神父が、肩を抱きしめ何も言わない。

「レスさん、ケイトが、いるんだから、しっかりしないと。」ギル村長の奥さんティフが声をかけてくる。


「レス・・・・」サリーが、レスの肩を抱きしめ、涙を流してる。


夜になり、教会には、バードとレス、ケイトの3人だけで、お別れをさせてもらうように、ドミニク神父に頼んだ。


3人で過ごす、最後の日なのだからと。

レスとケイトは、バードの冷たい手を握っている。

どんなに、回復魔法をかけても、バードは起きてくれない。


バードには、どこも怪我の様子もないのに、どうして。

回復魔法をかけても駄目だった。


「お母さん、お願いがあるの、お父さんに魔法をかけていい?」

「・・・・、生き返るの?」

「わからない、でも、本で読んだだけなの、このままお父さんと別れてたくない。」

「ケイト、いいわよ。」

ソウルリバース魂魄回帰」バードの手を握り、ペンダントの魔石を強く握りしめ、詠唱を言った。


(中級の魔法の本に書いてあった、魂を呼び起こす詠唱、出来るかわからない。

でも、もし、まだ魂が、ここにあるのなら、私達に姿を見せて、最後の言葉でいいから、このまま、突然の別れは嫌、せめて、お別れを言わせて、お願い。)


バードの体から、薄い影が出てくる。


『レス、ケイト、さよならだ。泣くんじゃないよ。俺は、お前達の傍にずっといるからな。それと、ジョン達を責めないでくれ、お前達が、人を憎むのは、見たくないんだよ。

俺のペンダントを外して、二人が持っていてくれ、傍にいられるから。ずっと見守っているから。笑っていてくれ。

最後に、伝えられて良かった。さ よ な ら。』と言って、消えてしまった。


「父さん・・・・」

「バード・・・・」

私達は、大きな声を出して、泣いた。

安置されている、バードの顔は、微笑んでいるように見えた。


バードの胸にかけてある、我が家のモチーフのペンダント、バードのペンダントは、外側の蔦のモチーフ。

「お母さん、お父さんのペンダント、外していいかな?父さんが言ってたもの・・・・」


「そうね、父さんが傍に居てもらうのだからね。一緒に外しましょう。」

バードのペンダントを外す時に見たのは、背中に大きな傷跡だった、後ろから、襲われた事を示していた。


「ジョン達を責めてはいけない。バードの言葉よ。」

「うん、見守ってくれてるんだんだものね、お母さん。」


バードのペンダントを外し、ケイトは、レスの首にかけた。


「お母さん、お父さんのペンダントは、お母さんが掛けとかないと、お父さん寂しがるよ。それに、私は、二人から、見守ってもらってるから。」






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