第5話 魑魅魍魎

 私は霊界ババァとは反対方向に逃げる。

 すると、「電磁波、オン!」


 また科学者が電磁波発生装着のスイッチを押したので、幽体を反転させて逃げる。


 サンゴ礁のように広がる雷が押し寄せて来た。

 津波から逃げてるネズミみたいに浮遊する私。

 必死で浮遊していたが急に催眠術にでもかかったように意識が遠のく。


「オンダバダバ、オンダバダバ……」


 和尚おしょうの唱えるお経で全体の自由を奪われた。

 そして視界を黒くまがまがしいモヤが遮った。

 悪魔祓い師の召喚した悪魔だ。


 抵抗する気力のない私に悪魔の触手が絡みつく。

 撮影隊で進行を務める司会者がカメラに向かって興奮しながらリポートしていた。


「し、視聴者のみなさん、今、霊界アベンジャーズが一斉に各々の能力で力を合わせ、悪霊を追い詰めています! 霊感の無い我々には何が起きているか分かりませんが、その未知のパワーを肌で感じています!!」


 終わった…………私の幽霊としての余生は、もう終わった。

 後は除霊され成仏も転生もない混沌に消えるだけだ。


 もういいか……永遠に地縛霊のままでも仕方がないし、終わりにしよう…………。


 自分の存在に諦めが付いた頃合いに、聞こえて来た声があった。


 ――――うるさい――――


 私の言葉じゃなければ霊界アベンジャーズの声でもない。


 ――――静かにしろぉぉおおお――――


 何十人もの苦しみとも聞こえる声が重なり、絶叫するように廃墟村へ響き渡る。


「オンダバダバ……ババババァァアアア!!?」


 デコピンで指人形を弾き飛ばすように、和尚がカマイタチのような風で吹き飛んだ。


 撮影隊からどよめきが起きた。

 無数の腕が壁や地面から生えて、手が生い茂る芝のように群がる。

 悪魔祓い師が手の群勢を見て額に十字をきって祈る。


「シィットゥ!(クッソ!)」


 おぞましい腕は召喚された悪魔へ強襲。

 無数の手は悪魔の触手を掴み、粘土人形の四肢をもぎ取るように引きちぎっていく。

 おかげで私は触手から解き放たれて、廃屋の裏へピンボールが穴に転がり落ちるように隠れた。

 更にいくつも生えた手は悪魔のホルスタイン並みの足を捕らえて、フライドチキンを投げ回すようにちぎり飛ばす。

 無数の腕は胴体では飽き足らず、悪魔の6つの目玉に刺さり目玉を抜き取る。


 もう悪魔は原型を留めることなくもぎ取られ、波にさらわれた砂の城のように消えた。


 その後で悪魔祓い師も和尚に続いて吹き飛ばされた。


「ファッキュウ、ジャパニーズゴッズ!(くたばれ日本の神々)」


 科学者は興奮して声を荒げる。


「アンビリーバボー! 本物だ。本物の怪奇だ!! もっとデータを集めなければ。もっとやってくれぇぇええ!!」


 彼が設置した電磁波発生装置がボールのように跳ね科学者に当たり、かの人はビリヤードの突かれた玉のように弾かれる。


 ふっと気づくと霊媒師、霊界ババァは我先に逃げたのか姿を消していた。  

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