第3話 空前絶後の隠れんぼ

「ん〜、オンダバダバ、オンダバダバ、オンダバダバ……」


 和尚おしょうがわけわからない呪文のようなお経を唱えてる。


 そうか、私は幽霊だがら、あのお経に操られてるんだ!


 和尚の謎の力にあらがおうとするも、幽体が言うことを聞かない。


「オンダバダバ、オンダボダボ、ゴホッ!」


 和尚のお経はずっと続かないのか、途中で息継ぎをして経の力が途絶えたのを見計らい、私は猛然と宙を飛んで納屋の壁をいくつも通り抜けて木々の闇に紛れる。


 なんとか隠れることができた。

 もぉ! 霊界アベンジャーズ嫌い!


 和尚はじれったそうに悪態をつく。


「出てこいや!」


 一世を風靡したレスラーか!?


 選手交代なのか和尚を通りこして神父が踏み出た。


「ココハ私ガ、オ相手シマショウ」


 悪魔祓い師の神父は何かの術書を取り出しページを開く。


「ヘコ〜ヘコ〜アザラ〜シ」


 神父の目の前の大地に魔法陣が現れて蛍光灯のように光った。

 輝く円陣からドブをさらったような竜巻が放たれる。


 唸り声をあげて召喚されたのは、夜闇よりも深い漆黒をまとう巨大な怪物。


 逆三角形の顔にサイコロの6の目のように並ぶ、まがまがしい瞳。

 頭部は両端からカマキリの腕が生えているように鎌型の角が2本、くの字に折れていた。

 顔の下にある口は黒アリと同じ両開きのアゴ。

 首から下は屈強な男性を思わせる肉体だけど、腰から下はホルスタインのような4脚。

 全身は真っ黒なのに腕や足にいくつもの亀裂が入り、その亀裂からマグマのような赤い光が溢れでていた。

 最も異様なのは胸から生えたタコやイカを思わせる触手。

 1本1本が意思を持っているかのように踊り狂っている。


 ――――キモッ! 


 司会者は神父に質問した。


「なんでしょうか? 一瞬何かの光が放たれましたが我々の凡人には、何がでたのかわかりません。神父。一体何が?」


「目ニハ目ヲ、悪霊ニハ悪魔デ立チ向カイマス。バチカン市国ニ封印サレタ上位悪魔、ジョべショベヌメル」


 なんで神父なのに悪魔を召喚してるのよぉ!?


 私が木々の影からそっと覗くと、後ろ姿を見せる悪魔の首が180度回り6つの瞳がこちらを見つめる。


 ヤバい!


 悪魔は体を回して胸に生えたいくつもの触手を真っ直ぐに飛ばす。


 怖い怖いコワイ!


 私は木々を通り抜けて飛び回るも、後を追いかけてくる触手は樹を貫通しながら付いてるくる。

 この幽体をジグザグに進ませても触手はドッグファイトよろしく、ピッタリと張り付く。


 こうなったら地面を通り抜けて土の中に隠れよう。

 土の中に入ると真っ暗で方角もわからなくなって、迷子になるけど、まずは隠れてやり過ごさないと。

 それからあの霊界アベンジャーズって人達がいなくなってから、ゆっくり時間かけて地上に出ればいいわ。


 だってどうせ私、死んでるんだもの。

 息もしないし空腹で飢えることもない。

 何年、ううん何十年かけても地上に出てやるわ。


 潜水のフォームをしてその場の土へ、ストンと落ちた。


 地下1000メートルは潜ったかな?

 ここまで潜れば霊能者の力は及ばないはずよ。

 ふ〜、これで安心……。


 安堵する間もなく、土の中に大根のように太いミミズがウネウネと現れた。


 な、何、これ悪魔の触手!?


 触手が地面をもぐって私へ絡みつき地表へ引きずり出す。


 いやぁぁああ!!


 空には奇麗な夜空が瞬いていた。

 

 あっさり地上に出れた…………。

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