隠れた世界

無機質なベッド、簡易なチェストと、窓からは居場所を忘れる様な自然が広がっている。

重たく冷たいドアを開ける勇気はまだ無いのに、今日もまた遠慮なく涙が出てくる。


生活が落ち着き、順調に仕事も出来ていたから通院間隔を空けていたけど、私は精神科に長く通院している。今の年齢の半分は。

色んな病院や医師との相性、それは精神科に限らずどの病院でもある。

この病院に一発で辿り着いた訳でもなければ、今と違う水と油の様な、最悪な時もあった。

今は有難いことに、ここが私の命綱になった。

何年経っても精神科に対するイメージは良くないけど、描くイメージは全て想像にお任せします。

全部が全部違う様に。

何かしら不調を抱えて入院していて、

パラダイスだ!と思う人は少ない…いや、いるなら私は知りたい。


入院施設の備わっているこの病院に、通院日に私は簡単に衣類や日用品を詰めた鞄を持ち、診察室に入るなり

「入院させてください…」

と泣いた。

心が体が、自由を怖がっていた。



説明を受け、初日は薬を飲んで眠ってしまい、あまり覚えていないけど…今日が二日目の朝なのは分かる。


何年ぶりかな……


身体は震え、涙が止まらない。呼吸も浅い。

深呼吸が上手くいかず、ナースステーションに行きたいのにふらついて、たった数歩も歩けない。

ベットに横になってしまったら、それこそ歩けないかもしれないから、必死に座った姿勢を保つ。

何分経ったかさえ、涙が恐怖が目を開かせてくれない。



コンコンッ

「神尾さーん、入るね」


この声が現実なら今すぐ来て。

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