まだ名前はない。

一色 舞雪

改めて

家に戻ってきてまだ二日しか経っていない。

おそろしく長く感じてならないのは、体や心が、まだ慣れてないからだろう。

実家に帰ってきてもいいって、親に言われたけど断った。

私に見切りを付けずに待っていてくれているやり甲斐のある職場に早く復帰したい。なによりやっと少しは元気な私に戻れた今この時間を味わいたい。


鬱がじわじわ私の心を溶かしていって

初めてパニック発作を起こして錯乱する程に、心自体の形が無くなっていた。

経験のない不安にぺちゃんこにされる前に、私は縋った。


今、こうやってベッドに寄りかかりながらベランダから見える空を見上げても

悲しさで泣くことも無い。

聞こえないはずの音が聞こえることも無い。

床をもがき這い蹲ることも無い。



私の中に住みついた新しい何かが「だいじょうぶ」と呟くと、ホッと頬が緩む。

それはただの感情だけど、私にはその感情が何か全く分からない。

ただ、その感情が現れると強い安心感に包まれる。

それが心地いい。


某歴史的文学の一文ではないけど、そのもの自体にまだ名前はない。

でもこれだけは言わせて。

私は目を閉じ、自身の頭と胸に言い聞かせる。



助けてくれてありがとう

一緒にいてくれてありがとう

改めて、よろしくね

名無しくん

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