怨哀

皆がわらわらとそれぞれの車に乗り込もうとしたとき、

一人が暗がりの道路の先を指さし叫んだ


「何だあれ!!」


その声に皆が反応する


「どうした?」

「どこどこ?」


わぁぁああああああああああああ


暗がりに沈む道路の真ん中に

両肘をついてこちらを伺っている女

その頭はわずかに傾いていた


「急げ急げ!」

「早く出せよ!」


なりふり構わず近くの車に集ると勢いよく3台の車は411号に飛び出した


「おいみんな乗ったか?みんないるよな?!」


私は先輩と同じ車に乗ったが、一番出遅れたため

後ろから先行した2台を追う形となった


女が寝そべっているのは進行方向の逆だ


広場に頭から突っ込んでいた車は必然的に一度女のいる方向へ下がり転回する


後部座席から先輩は後ろを振り向くと表情をこわばらせた


「見るな見るな」


後ろを見ようとした私に先輩が告げる


転回を慌ただしく済ませると車は勢いよく帰路の道路に走り出した



『 ・・・・ぁぁぁぁぁああ 』



叫びのような歌声のような声が風のように車内を抜けた


車はかなりの速度で走った

不思議とそれを誰もが危ないと思わなかった

とにかくこの場所から早く離れたいという気持ちと恐怖が勝ったのだ


シャッシャッシャッシャッ・・・


車の速度と比例しないその不可解な音が車の後ろから聞こえる


「わぁあ、何だよマジで!!」


運転していた友人がバックミラーを見て叫ぶ


見るなと言われたことを忘れ思わず私は後ろを振り向いた


そこには車から離れながらも追いかけてきている”もの”があった


着物を来た女性だ

走っているのだ

まるで普通の人間がそこにいて走っているかのように

走って付いてきているのだ


車はかなりの速度だ

もちろん付いてこられるわけがない


つまり生きている人間ではないのだ


「あっ追いついたぞ!」


先行していた2台が先の方にハザードを焚いて停まっているのが見える


「停まるな!追いぬいてそのまま行け!」


先輩の声に従い友人は2台の横をそのまま通り過ぎて先行した

2台は追従するように私たちの車の後に続いた


いつしかシャッシャッ・・という音は消え、

先輩が言うには、車の後を追っていた”何か”も先行の2台と合流したくらいのところで、まるで暗闇に溶けるように消えたという


車内は沈黙した


ついさっき”全員”で経験した出来事について

個々が混乱していたのかもしれない


現実なのか・・・


どれだけ走っただろうか、

道路沿いに人里の灯りがポツポツと戻ってきた


その先、右側に大きな駐車場を見つけると、そこに3台は静かに滑り込んだ。

















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