第9話

日吉は自宅に着くと直ぐに自分の上司へ電話を掛けた。

日吉の上司、野々村は推理力と観察眼が優れていて、いくつもの難事件を解決している。ただ、日本人らしくない性格で有休をしっかり取り、土日は必ず休む。その為出世が遅い。


「もしもし」

「お疲れ様です。日吉です。夜分遅くにすみません」

「どうした? 試合日程が決まったか?」

「いえ、ボクシングの話ではなくて……」

「仕事の話か? 今日は土曜だぞ」

休みの日に野々村へ仕事の話をするのは御法度だ。

「仕事と言うかプライベートと言うか……。今日、友人の立食パーティーに呼ばれてたんですけど、そこで起こった奇妙な話を聞いて頂きたくて……」

「なるほど、言ってみな」

日吉は早川の説明をした。

「……と言う事なんですけど……」

「それでお前は、その早川って嘘つき野郎の能力を信用したのか?」

「えっ?! でも、目の前で見せられたので……」

「そもそも、お前の書いたイチゴのショートケーキと蝋燭の区別もハッキリつかないやつに、どうして殺害現場の映像がハッキリ見えるんだ?」

「まあ、そう言われればそうですね。と言う事は、後ろで見ている人が早川に答えを送っていたのですか?」

「まあ、そういう方法もあるが、もっと簡単な方法がある」

「と、言いますと?」

「恐らく、クリップボードに仕掛けがあるんだ。素人でも購入すれば簡単に出来る手品だよ」

「そうなんですか?」

「ああ。ボードの上から文字を書けば、ディスプレイに文字が出ると言う仕組みだ」

「なるほど……あっ! でも、次の人はクリップボードに文字を書かずに当てましたよ?」

「そっちの種はもっと単純だ。その男はサクラだよ」

「サクラ?」

「ああ、予め打ち合わせをしているんだよ。紙に書かないで、何色を言っても正解って言えば良いだけだからな」

「……そうか、完全に騙されました。あれ? そう言えば、次の人はクリップボードに書いたのに心の中が見えないって言ったのは何故ですか?」

「まあ、色々と理由があるんだろうけどな。信憑性が増すとか、殺害現場の映像が見えたという事のインパクトを上げる為とか。もしかすると、クリップボードやディスプレイが故障したって可能性もある。でも1番は、今回限りの手品なのだから、見えなくなったって言っている方が、後々、楽だという事じゃないだろうか?」

「今回限り……と言う事は、野々村さんは早川を疑っているのですか?」

「まあ、早川も充分怪しいが、もっと怪しいヤツがいる」

「西脇ですか?」

「いや、色を書かなかった男だよ」

「確かに! 早川と繋がっているとなると、かなり怪しいですね」

「早川にはアリバイがあったのだろう? その男が実行役かも知れない。まあ、あくまでも仮説に過ぎないがな」

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