1章 影狼ノ名
影狼ノ士
氷柱「ん…!」
「あ、起きた?」
氷柱は布のようなもので目をふさがれていた。そのうえ、氷柱は身動きができない状態でいた。
氷柱(金縛りを受けてる…)
氷柱が身動きができないのは金縛りを受けているから。では、氷柱を金縛り状態にさせているのは誰だろうか。
「じゃあ僕、伊儀橋さんとこ行って、金縛りを解いてもらえるように言ってくるから」
男は氷柱がいる部屋から出た。どうやら、氷柱を金縛り状態にしているのは、『伊儀橋さん』という人物のようだ。
氷柱(健斗君、トラ君はどこにいるんだろう…そしてここはどこだ?私は畳の上にいるみたいだけど…)
しばらくして、トタトタトタ、と足音が聞こえてきた。足音はどんどん近づいてくる――止まった、それと同時に戸を開ける音がした。
「今、解いてあげるから逃げないでね」
氷柱の体が動いた。金縛りが解けたのだ。氷柱は目にふさがっている布のようなものをとる。一気に視界が開けた。氷柱は目をしばたたかせる。目を慣らすためにやった。目が慣れた氷柱は、目の前にいるであろう人達を見上げた。
菜紬菜はニッコリとほほ笑むと名を名乗った。それに対して、菜紬菜の隣にいる人は、
腕を組んで、眉間に眉を寄せてにらみつけるように氷柱を見下ろしていた。氷柱は一郎丸の圧力で身動きができない。無論、金縛りはとっくに解けている。
菜紬菜「ねえ」
菜紬菜は氷柱の前にしゃがむと、
菜紬菜「君の名前は?もしかして、名前なかったりして」(ニコ)
菜紬菜という人は悪戯いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
氷柱はふっと我に返り、
氷柱「ありますよ。私の名前は
名を名乗った。しかし、健斗の時に名乗った『伊藤』姓ではなく、『氷堂』姓を名乗った。なぜだろうか。
菜紬菜「やっぱりね。君…」
菜紬菜が何かを言いかけた時、ドタドタドタ、とあわただしい足音が近づいてきた。ガタン!、と荒々しく戸を開けたのは、
健斗「やっと見つけた。お前、こんなところにいたのか」
健斗だった。健斗はあきれたように言った。そして、菜紬菜と一郎丸の顔をを交互に見ると、
健斗「あ…」
何かを思い出したようだ。口を開けて引き攣った笑みを浮かべている。
菜紬菜「あれ?健斗君、なんでここにいるってわかったの?」(ニコ)
一郎丸「そうじゃねえだろ」
菜紬菜はニコニコしている。一郎丸は氷柱から健斗へと視線を移した。
健斗(まずい、殺されるかも)
健斗は一郎丸の圧力で体が動かない。
一郎丸「お前、誰が部屋から出ていいと言った?」
一郎丸は氷柱に向けていた険しい表情を、さらに険しくして健斗の目を見る。
健斗「ええっと…」
健斗は返答に困った。部屋を出るな、と言われたのに部屋を出てしまったからだ。
菜紬菜「健斗君は、心配性だね。氷柱ちゃんが心配でここまで来たんでしょ?」
菜紬菜は健斗に助け船を出した。いや、正直に言うと菜紬菜は冗談で言っているのだ。
健斗「そうだ」
健斗は心の中で「ありがとよ」と言った。健斗は菜紬菜が自分のことを助けてくれた、と思っている。
菜紬菜はきょとんとしていた。菜紬菜は健斗が本当に氷柱のことを心配してたんだ、と驚いていたのだ。そうとわかれば、と菜紬菜は冗談ではない冗談らしきものを言うに限る。
菜紬菜「ほら、伊儀橋さんが妹の和香ちゃんを心配するのと同じで健斗君も、氷柱ちゃんのことが心配で来ちゃったんですよ」
一郎丸「まァいい、お前もここに座れ。話したいことがある」
健斗は氷柱の隣に座った。菜紬菜は氷柱の前に、一郎丸は健斗の前に座った。健斗は嫌な顔をした。
健斗(何で俺の前に来んだよ…)
一郎丸「何だ」
目を細めて健斗に言った。
健斗「いっいや、別に…」
健斗は一郎丸から目を逸らした。
一郎丸「話というのはな…」
と前置きすると、一郎丸は話し始めた。
一郎丸「お前ら、未来から来ただろ」
健斗・氷柱「未来…」
健斗と氷柱の頭に『未来』という言葉が浮かんだ。どうして『未来』なんだろうか――2人は気づいた。
健斗「氷柱、今、俺たちが考えてることが本当なら…」
氷柱「う、うん…」
健斗と氷柱の顔から血の気が引いていく。氷柱は恐る恐る聞いた。
氷柱「今って何年ですか?…」
一郎丸「1868年だ」
健斗・氷柱「1868年!?」
健斗と氷柱は顔を見合わせて、苦笑いをした。氷柱たちがいたはずの年は2021年。しかし、今の年は1868年と一郎丸は言う。どうして、昔の時代に来てしまったのか。そして、氷柱たちが未来から来たとわかったのか。と、謎は多い。健斗と氷柱は落ち着いて、一郎丸の問いに対し、首を縦に振った。
健斗「何で、伊儀橋さんは俺たちが未来から来たってわかったんだ?」
一郎丸「言葉を改めろ。そりゃ、お前らの格好を見れば簡単にわかる。見たことのねえ格好をしてやがるからな」
確かに、と健斗と氷柱は思った。一郎丸と菜紬菜は袴姿だ。それに対し自分たちは――洋装だ。
菜紬菜「言葉を改めるのは、伊儀橋さんのほうじゃないですか」(ニコ)
一郎丸「敬語を使え、と言ってるんだ」
菜紬菜「ふーん」
健斗「1868年ってさ…戊辰戦争があった年じゃねえか?」
健斗は氷柱の耳元で囁いた。
氷柱「たぶん…」
健斗「だっだよな…俺たち、1番ややこしい時代に来たなっていうか、何で俺たちは昔の時代に来たんだ?」
健斗と氷柱は自分たちの行動を振り返ってみた。波動を追って神隠しの山の前まで来て、でも夜になってしまったからと言って家に帰ろうとした。そして、気持ちの悪い風が、しかも氷柱たちが宙に舞うほどの嵐のような風が襲ってきて――
健斗「あれ?」
健斗も氷柱もその先がどうなったのか思い出せない。難しい顔をしている氷柱に、
菜紬菜「どうしたの?」
と声をかけた。氷柱がわけを話すと信じたくない言葉が返ってくる。
菜紬菜「じゃあ昨日、健斗君と氷柱ちゃんが伊儀橋さんの上に落ちてきたことも覚えてないんだ
健斗・氷柱「え」
健斗と氷柱は絶句した。
菜紬菜「氷柱ちゃんのことはなんとか受け止めることができたみたいだけど、健斗君のことは受け止められなかったみたいだね。それか、わざと受け止めなかったのかも」(ニコ)
健斗「だから、頭が痛かったのか。っていうかひでくねえか、伊儀橋さん」
健斗は頭をかきながら言った。
一郎丸「信じるんじゃねえよ。こいつはいつも冗談ばかり言ってやがる、そういう奴なんだ」
菜紬菜は、あ、ばれた、という表情とともに笑顔をつくっている。
菜紬菜「で、どうするの?」
健斗と氷柱は顔をしかめた。
一郎丸「行く当てがねえんだったら、俺たち影狼組がお前らを…」
菜紬菜「うわー影狼にお客さんが来たー」
菜紬菜は嬉しそうに言った。
一郎丸「客としては扱わねえ。お前らは、影狼の隊士として扱う」
菜紬菜「なぁーんだ」(ニコ)
菜紬菜はがっかりしたような、それでも笑顔をつくったまま言った。
菜紬菜「影狼ってね、誰でも入隊することができるんだ。だから、妖怪の君たちも入隊することができる。よかったね」(ニコ)
健斗「妖怪も!?」
健斗は驚いた。氷柱は少し嫌な顔をしていた。
菜紬菜「僕も伊儀橋さんも妖怪なんだけど…もしかして、気づいてなかったの?」(ニコ)
健斗「気づかなかった…」
菜紬菜「だろうね。だって、屯所全体から波動を感じるから誰が妖怪で、誰が人間かなんて僕だって、わからなくなるもの」(ニコ)
なるほど、と健斗は頷いた。
健斗「ん?菜紬菜、お前『妖怪の君たち』って言ったか?」
菜紬菜「うん、言ったよ」
健斗「氷柱は妖怪じゃねえぞ」
一郎丸は片眉をおでこに寄せた。菜紬菜は腹を抱えて笑っている。
菜紬菜「君も冗談言うの得意だね」
健斗「俺、冗談なんか言ってねえけど」
菜紬菜「僕は西で1番強い鬼族の本家、蘭家の頭領。そして、伊儀橋さんは東で2番目に強い鬼族の本家、伊儀橋家と人間の間で生まれた、半分妖怪で半分人間の血が流れてる半妖の頭領。で、氷柱ちゃんは…」
氷柱「私は人間です」
氷柱が菜紬菜に反論した。
氷柱「勝手に言わないでください」
氷柱は顔をふくらませる。その目は菜紬菜をにらんでいた。
一郎丸「とにかく、お前ら入隊するのか、しねえのかはっきりしろ」
氷柱「入隊させてください」
即答だった。氷柱は健斗の意見も聞かずに答えた。
菜紬菜「改めて」
菜紬菜はスッ、と立ち上がった。
菜紬菜「僕は、影狼組1番隊隊長蘭菜紬菜。よろしくね」(ニコ)
一郎丸も立ち上がった。
一郎丸「俺は、影狼組局長伊儀橋一郎丸だ。今からお前らを、影狼の幹部たちに会わせる。その服を脱いで、袴を着ろ」
氷柱「はい」
健斗(何か、一方的に話が進められてる…ま、いっか)
〈次回予告!〉
「影狼組5番隊隊長だ」
「俺様は、影狼組2番隊隊長――」
「遅い。あいつら、どこを歩き回ってるんだ?」
「何で俺を巻き込むんだよ」
「…恥ずかしい…」
「可愛い…」
新キャラクター登場!
そして、影狼組入隊早々事件が起こる!?
次回をお楽しみに!
読んでいただきありがとうございます。
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