白死鬼の花~私と俺の出逢い~

藤堂氷牙

序章 2人の出逢い

物種ノ巻

氷柱つらら「あー今日も疲れたー。はやくお風呂入ろっと」


 氷柱はランドセルを置くと、服を脱いでお風呂に入った。

 湯舟につかりながら、氷柱は目を閉じる。


氷柱(静かだなー。うるさいあいつらもいないし)


 あいつらとは2人の妹のことだ。妹2人の顔を思い浮かべていた。


氷柱(ま、いたらいたで愉快なんだけどね) 

「やっと見つけた。ったく、探したんだからな」

氷柱「ん?」


 氷柱は耳を疑った。お風呂に入っているのは自分だけなはず、そもそも聞き覚えのない声が静かなお風呂に響き渡るのは可笑しい。夢を見てるんだな、と思いながらも氷柱は目を開けた。


「よっ」

氷柱「え…」


 氷柱は目を2回、しばたたかせた。そしてもう一度、目の前を見た。氷柱は顔を赤く染めた。やっと状況が理解できたようだ。


氷柱「くっくっ来るなっー!変態!」


 氷柱はがむしゃらに物を投げた。目の前には、見たことがない男の子がいたからだ。


「ちょっやめろよ!危ねえだろ!」


 彼は、氷柱の腕を掴んだ。


健斗けんと「俺は天風健斗あまかぜけんと。お前を悪い妖怪から守りにきたってのに、変態はねえだろ」

氷柱「守りにきた?」

健斗「説明はお前が服着てからだ。そのままでいいなら話を進めっけどよ、やだろ?」

氷柱「やだよ」

健斗「じゃっ俺はあっちにいっからな」


 健斗はお風呂から出た。



氷柱「お風呂、あがりました」


 健斗にむかって怒りながら言った。健斗は氷柱の部屋でくつろいでいるのだ。怒りを覚えるのも仕方あるまい。


氷柱(他人の部屋で勝手にくつろいで…)

健斗「お前、名前は?」


 氷柱は濡れた髪をタオルで拭きながら言った。


氷柱「私の名前は伊藤氷柱いとうつらら

健斗「ふーん」


 健斗はニヤニヤして、氷柱を見ている。


氷柱「何か?」

健斗「いや、何でもねえよ。ただ、可愛いなーって思っただけだ」

氷柱「あっそ」


 氷柱は健斗から目を逸らした。


健斗「嬉しくねえのか?」

氷柱「嬉しくなんかないよ。だって健斗君のこと、好きじゃないもん。…ってその前に、さっきの話の説明してよ」


 氷柱は健斗の座っている所の隣に座った。


健斗「お前、白死鬼の花を知ってるか?」


 氷柱は一瞬、目を細めたが、すぐに首を横に振った。


健斗「白死鬼の花っていうのは、簡単に言うと『生きてる者に力を与えることのできる花』なんだ。その花をもってるのがお前だ」

氷柱「私、そんな花なんかもってないよ。私のことを守りにきたっていう話とどこがどう繋がってるのかもわからないし」

「健斗ったら、説明下手すぎニャ」

氷柱「?」


 健斗の背後から声がした。


健斗「お前、何をしゃべるかと思ったら…俺への悪口とかひでえやつだな」


 ぴょこん、と健斗の頭に飛び乗ったのは


トラ「僕の名前はトラ。猫又っていう妖怪ニャ」


 猫の姿をした妖怪、猫又だった。


氷柱「わー可愛い」


 氷柱はトラの頭や首をなでた。氷柱は大の生き物好きだからだ。


トラ「くっくすぐったいニャ」


 トラは嬉しそうに言った。


健斗「氷柱、そいつの相手はそのくらいにしておいて、さっきの話の続きだけど…」


 健斗は中断されていた、話の続きを再開させた。トラは、氷柱のひざでまるまると喉を鳴らせた。


健斗「その花の力を狙ってる妖怪とかがたくさんいる。妖怪に白死鬼の花を渡したら、世界…は大げさかもしれねえけど日本は完全に滅ぶ。そんな状況にならねえように妖怪から守るっていう意味で守りにきたって言ったんだ」

氷柱「でも、健斗君もトラ君も妖怪じゃん」

健斗「俺は妖怪だけどな、1番白死鬼の花と関わりのある妖怪、死神様だ」

氷柱「ふーん」


 氷柱は興味がなさそうに返事をした。氷柱の驚く姿を見るのを楽しみにしていた健斗はがっかりた。が、いつまでも肩を落としているわけにはいかない。先程の話を再開させようとした――が、


健斗・氷柱・トラ「!」(波動!)


波動を感じた。

 波動とは、妖怪が放つオーラのようなもの。


氷柱(妖怪が近くにいる。パジャマ着てちゃ、動きにくいし)


 氷柱は中途半端に乾いた髪を結うと、パジャマを脱いで私服に着替えた。

 健斗とトラはその間、玄関で氷柱を待っていた。


氷柱「お待たせ。さ、行こ」

健斗「おう!」


 氷柱たちは玄関のドアを開けた。黄昏時…太陽は沈みかけ、空は黄金色に染まっていた。氷柱たちは走った。波動が感じる山にむかって。


 走りながら健斗は氷柱に聞いた。


健斗「お前、波動を感じ取ることができるんだな」

氷柱「できるよ、だって…」


 氷柱はあわてて口を閉ざした。


氷柱(あのことは言えない)

健斗「波動が強くなってきた。たぶんこの山のどっかにいるはずだ」


 健斗は山の前で立ち止まった。


氷柱「この山は…」

健斗「お前、この山のこと知ってるのか?」

氷柱「うん。この山は神隠しの山っていうんだけど、ある言い伝えがあるんだ。『この山には立ち入ってはならぬ。立ち入ったものは、2度と戻れなくなるからだ。もし、立ち入ってしまったら白き光、黒き光を集めて神にささげなさい。そうすれば、あなたの罪は消え元の世界に戻ることができる』っていう言い伝えがね」


健斗「白き光と黒き光ってなんだ?」


氷柱「私は知らないよ」


 もう1度、山を見た。太陽は沈み、暗黒の空のせいか、山は不気味な空気が漂っている。


トラ「本当に行くニャ?」

健斗「お前は怖がりだな」

トラ「怖がりじゃニャいニャ!」


トラは爪をたてて怒った。だが、その体は微妙に揺れている。


健斗「氷柱、お前は行くよな?」

氷柱「行きたくない」

健斗「え?」


 健斗は予想外の返答に驚いた。行く、と言うと思ったからだ。


氷柱「行きたいなら1人で行ってきなよ。私はトラ君とここで待ってるから」

健斗「お前が行かないんだったら…」

氷柱「1人じゃ怖いの?」(笑)


 氷柱は健斗を挑発するように言った。


健斗「そうなのー。僕1人じゃ怖いのー」


 健斗は子供らしい口調で言った。仕方ない、一緒に行ってあげるよ、という言葉を氷柱は飲み込むと健斗に笑顔で言った。


氷柱「1人で行けないなら、はやく家に帰ろう。ね」(ニコ)


 健斗に見せた初めての笑顔だった。


健斗(かっ可愛い…)


 健斗は顔を紅く染めた。


健斗(俺はこいつに…惚れてるのか?)


 健斗はつい氷柱をじろじろと見てしまった。


氷柱「私の顔に何かついてるの?それとも…」


 そう、氷柱が言いかけた時、


〈ビュー!〉


いきなり健斗と氷柱の間を気持ちの悪い風が吹き抜けた。


トラ「気持ち悪い風だニャ」

氷柱「風も、この山に入るなって言ってるんだよ」

トラ「きっとそうニャ。はやく帰るニャ」


 トラは氷柱の肩に飛び乗ると喉を鳴らした。


健斗「そうだな。わざわざ暗い夜に行かなくても、明るい昼間とかに行けばいっか」


 氷柱たちは家がある方向に踵きびすを返し、歩き出そうとした――またあの風が2人と1匹を襲う。しかし、今度のは――


氷柱「うわっ!」

トラ「フギャー!」

健斗「氷柱!トラ!」


 氷柱とトラは宙を舞った。健斗はあわてて氷柱に手を伸ばす。


氷柱「健斗君!」


 氷柱は健斗の手を掴んだ。


健斗「しっかりつかまれ…って、あっあれー!」


 健斗までもが宙を舞ってしまった。


――嵐のような風は消えた。辺りには静寂な空気が広がった。健斗に氷柱、トラはいなかった。


〈次回予告!〉


「あ、起きた?」


「私の名前は――」


「お前ら、未来から来ただろ」


「氷柱は妖怪じゃねえぞ」


新キャラクター登場!

目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。

健斗と氷柱は一体どこに来て、どのように生活するのか!?

次回をお楽しみに!


読んでいただきありがとうございます。

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