第28話 和議の交渉

「それは出来ません」


 降伏を求められた阿部は拒絶した。


「畏れ多くも帝より征夷大将軍の職を与えられ、討伐命令を受けた身。帝の代理人として帝の権威を傷つける、降伏など出来ません」


 征夷大将軍は帝に代わり、派遣された土地の統治も任される事になっており、帝の代理人としての地位にある。

 すなわち帝と同じように扱われる。

 その征夷大将軍が降伏したとなれば帝が降伏したのと同じであり、朝廷の権威は著しく傷ついてしまう。


「そうですか」


 呉羽は悲しそうに呟く。


「では、この地より退いてもらえますか?」

「この地を征伐することが帝のご意志。それは出来ません」

「では我らが都に朝貢するのは如何でしょう」

「どういうことでしょうか?」

「このたびは科野の国の平定です。ならば我らが朝廷に従ったのであれば、役目を果たしたのでは?」

「あなた方が朝廷に従うというのですか?」

「はい、毎年科野の国の産物を献上いたしましょう。その代わり、力寿丸様を国司に任命してください」

「なっ」


 反乱の中心人物を国司にするという提案に阿部は驚いた。


「それでは、反乱を許容するというのですか」

「科野を我々が朝廷に代わり統治するということです。我々は朝廷軍と戦い勇戦したが、多勢の前に劣勢となり、朝廷の力を思い知った。そして、今悔い改め朝廷に従おうとしているだけです」


 へりくだっているが、実際は科野の国を力寿丸を中心とした半ば独立国家となろうとしている。

 朝廷に貢ぎ物を送るが、国司は朝廷では無く自分たちで決めようとしていた。

 事実上朝廷と対等な独立国になろうとしていた。

 ただ、朝廷が力寿丸を国司として認めるので、権威としては朝廷の力が残る。

 科野の国は自ら統治する事が出来るようになるし、朝廷も科野の国が従ったように見える。

 そして戦いの結果も科野の方から和議を結んだように体裁を整える事で朝廷の権威を傷つけない。

 互いの目的を達成し、角が立たないようにする妙案と言えた。


「もし、戦うとなればどうします?」

「最後の最後まで戦うのみです」


 阿部の質問に呉羽は毅然として答えた。

 街道の陣地は最早陥落しそうにない。

 食料が少なくなり末端の兵士は食料を求めて、周辺の村や人家に略奪に出ているという報告も来ている。

 これ以上、戦う事は出来ない。

 阿部は観念した。


「分かりました。その条件で和議を結びましょう。条件として我々は武装したまま街道を通り抜ける事を許してください」

「勿論です。ただ通り過ぎるだけでは申し訳ないので、食事もご用意しましょう。土産物も用意しますのでどうぞお納めください」


 呉羽はにこりと笑って承諾した。

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