第27話 阿部の窮地

「攻め落とせぬか」


 街道を封鎖する陣地に向かって攻撃していた阿部は、十数回目の攻撃が失敗したことに愕然とした。

 数日の間に攻撃を仕掛けたが、落ちそうに無かった。

 街道の陣地を攻めれば、傍らにある山の一夜城から側面を攻撃され、一夜城を攻撃すればあ街道の陣地から攻撃を受ける。

 両者を同時に攻撃しても、地面に深く突き刺さった丸太の柱に阻まれて攻め込むことが出来ない。


「食料も最早ないか」


 攻撃のために兵士達や武士達に多めに支給していたこともあり、食料は尽きかけている。

 節約しても街道を奪回し無ければあいずれ食料は尽きるからならば攻撃に全力を尽くさせるべきであり、間違ってはいない。

 しかし、攻撃は全て失敗し、兵士は連日の攻撃で疲労していた。

 突破することは最早不可能だろう。


「将軍、陣地から白旗が揚がっています」

「攻撃するな」


 交渉を求める合図である白旗が掲げられた場合、攻撃してはならない。

 これは、戦における流儀だった。


「行ってくる」

「将軍自らですか、危険です」

「戦場は何処でも危険だ」


 万策尽きた今、このままでは飢えて死ぬしかない。ならば少しでも兵士を助けようと、阿部は自ら交渉に赴くことにした。


「向こうからの攻撃もないだろうしな」


 街道を封鎖しているだけで飢え死にするのだろうから、いたずらに攻撃して来る必要は無い。

 それに、おそらく交渉相手は阿部が予想した通りの人物であろうからだ。




「お久しぶりです阿部比羅夫様」

「ご無沙汰しております呉羽様」


 水無瀬側からやってきたのは呉羽だった。

 二人は陣地の前に作られた会見場所、麻で織り上げられた敷物の上におかれた椅子に座り、話し始めた。


「話の前に少し食べませんか?」


 呉羽はそう言って、後ろで待機していた女性の化外、オオカミ少女と狐耳の女性にそれぞれ膳を持たせ、自分と阿部の前に置かせた。


「食事を取らず戦っている兵士達がおりますのでご遠慮させて貰います」


 だが、阿部は丁寧に断った。

 此方が飢え始めているのに将軍が贅沢な食事をしては士気に関わるからだ。

 しかし、置かれた膳の食べ物が見えた。

 芋や牛蒡、肉などが入った具だくさんの熱々の味噌汁に、山菜の天ぷら、山盛りの米の飯、ゼンマイのおひたし。

 交渉を優位にするためのあるだろうが、呉羽の側は食料は豊富そうだった。


「では、本題を伝えさせて貰います」


 自分たちの優位を知らしめることが出来たので呉羽も無理強いはせず、膳を下げさせると早速話しに入った。


「私たちに降伏してください」

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