第20話 荒廃した国府
「おおい! 誰かいるか!」
流された国府に来ていた力寿丸は大声で叫んだ。
洪水からすでに数日は経っているが、生存者がいないか、あるいは被災者がいないか探していた。
「おい、大丈夫か」
倒れている人間を見つけ出すと、すぐに国庁の跡に作られた避難所に連れて行く。
「おおい呉羽! また被災者を見つけたぞ」
「こちらに寝かせてください」
力寿丸に連れてこられた被災者を呉羽は横にすると診察を始めた。
「やつれきっているわね。下手に食事を与えても与えた驚きで死んでしまうかもしれない。栄養のあるものを飲ませましょう」
呉羽は水に溶かして温めた蜂蜜を冷ますと被災者に飲ませた。
甘い味覚に何日も飲まず食わずで過ごしていた被災者は、最初こそ弱々しかったが、甘味を感じると全てを飲み干そうと器にしがみつくように飲む。
「大丈夫ですよ。まだたくさんありますから、少しずつ飲みましょう」
その様子を見て呉羽は笑うと次の器を持ってきた。
大量に飲まないように小さな器で小出しにしたのが良かったようだ。
何倍か飲むと安心したように眠り始めた。
「蜂蜜を採取しておいて良かったわ。他に飲みやすくて栄養のあるものが内から大変だったわ」
科野の国の国名ともなったシナノキは、周辺に多く生えている。
シナノキは花を付け、その蜜は甘い。だから開花の時期になると、養蜂を行うと良質の蜂蜜が採れる。
呉羽はこのことを知っていて、養蜂を始めており、人々に分けていた。
「回復したら、水無瀬へ連れて行きましょう」
国府を洪水で流されたことを知った直後から呉羽は、街に住む人々を集めて国府の救援に向かった。
攻めてきた国司の根拠地である国府を救うことに化外の者達は難色を示していたが、被災した人達に罪は無いと呉羽が説得したこともあり、その日のうちに向かった。
普段より呉羽が化外の者達に親身になって世話をしたり、水無瀬に住みやすい街をつくったこともあって彼らは協力的だった。
国府の住人達は洪水で家を失ったところに大勢の化外の住人が来たことに驚き、恐怖で混乱したが、先頭にいた呉羽が呼びかけ、助けに来たことを知ると安堵し、救助を受けた。
「回復したら、水無瀬に移って貰いましょう」
国府の被害が大きく、食料は殆ど無くなり、衛生環境も悪くすぐに新たな街を作ることは出来ない。
だから、仮の住処として水無瀬に一時的に移って貰う事にしていた。
「まさか、こんなことになるとは」
国司の浅はかさが直接の原因とは言え、水を堰き止めてしまった力寿丸は肩を落とした。
「仕方ありません。誰も、あのような事になるとは予想していませんでした」
呉羽はそう言って、力寿丸を慰めた。
本当は土砂で堰き止められて出来た湖がいずれ崩壊して土石流を起こすことを知っていたが、国府の軍勢を止めるためには道を塞ぐためにもどかすことは出来ず、致し方なかった。
だからせめて、助け出したいと呉羽は考えていた。
「さあ、皆さんを水無瀬に」
「大変だ!」
その時オオカミ少女が駆けてきた。
「峠から大勢の都の兵士達がこっちに向かっているぞ!」
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