第18話 愚か者の知恵
「さあ、掘り進むのだ!」
谷をふさいだ大きな岩の前で大勢に向かって国司は大声で命じた。
遠くの金山から鉱夫を呼び寄せ、穴を掘らせていた。
岩を穿ち、力寿丸達の住む水無瀬へ向かうための穴を掘るためだ。
鉱夫達に掘らせ、その残土を排出させるための人夫、飯やその他の支援をする者達を集めて大急ぎで進めていた。
速く遷都の候補となる土地を都から矢のような催促があり、さっさと穴を掘り進め、水無瀬に行かないと国司の地位が危なかった。
しかし鉱夫達は手を止めてしまった。
「どうした! 何故進まない!」
「しかし国司様、割れ目から水がしみ出してきております」
穴の先端の岩の隙間から水がにじみ出てきていた。
「この周囲は湧き水が多い。水が出てきてもおかしくは無かろう」
「しかし、大量に流れ出るのでは?」
「川のようにか? 川は遙か下にあるのだぞ」
国司は鉱夫達を馬鹿にするような口調で言うと、岩に穿たれた鉄の杭に拾った槌をぶつけた。
「おりゃっ」
杭に当たると、鉄の金属音が周囲に響き、岩の亀裂が広がった。
「さあ、このよう力を入れて進め」
その時、背後の岩からピシッという音が響いてきた。
国周辺の亀裂が周囲に広がっていった。
その様子を見た鉱夫達は、恐れおののいて、一歩下がった。
「何を下がっている。早く掘り進め」
国司が鉱夫達に迫ると、また、亀裂が周囲に広がった。
中心にある鉄の杭からは水がしたたり落ち始める。
最初は滴だったが、やがて一つ筋の線となり、流れ始める。
根元からも水が流れ始めてきた。
「早く進まんと牢に繋ぐぞ!」
国司が鉱夫を脅す間にも、亀裂は広がり、水の流れが増えていく。
水は地面に達し、足下に流れ始め、徐々に量が増えていって、国司の足下を濡らした。
「なんだ、これは」
鉱夫に迫ろうと一歩踏み出したとき、足下で水音がしてようやく国司は水が流れていることに気がついた。
水の流れ出している方向へ顔を向けた時、大きな亀裂が入り、勢いよく水が噴き出して国司の顔に当たった。
「うおっ」
水がかかった国司は、身体をずらして避けたが、新たな亀裂から水が勢いよく出てきて身体を濡らした。
水の出てくる場所は増えていき、勢いも量も増えていった。
「に、逃げろ!」
鉱夫頭が叫ぶと、周りにいた全員が逃げていった。
一番後ろにいた国司も、すぐさま逃げ出し、鉱夫達を追い抜いて先頭に立って逃げる。
彼らが逃げていった直後、ついに亀裂が大きく破け、大量の水が噴出、坑道から大量の水があふれ出た。
水の勢いは止まらずむしろ勢いを増して坑道を広げていった。
周囲の土を切り崩し、水は川に流れ込み濁流となって周囲の木々や土、岩石を巻き込んで下流へ流れていった。
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