第17話 水無瀬の都

「力寿丸様は思いきったことをなさりますね」


 力寿丸が落として谷を塞ぎ、道を塞いだ巨岩を見て呉羽は困り顔をした。


「いや、それほどでもない。呉羽の梃子のやり方を見なければ思いつかなかった」


 神が地上に降り立つ時、塞いでいた岩を破壊して降り立った神話がある。逆に巨大な岩を使って道を塞げないかと考え、近くの岩山の岩を落としたのだ。


「道を塞ぐのは構いませぬが」


 呉羽困り顔をした後、指摘した。


「川まで塞いでしまっては、水が溜まってしまい、この谷は水浸しになって仕舞います」


 力寿丸が落とした岩は川まで塞ぎ水が流れなくなってしまった。

 そのため川の水が溜まりはじめ徐々に上がってきている。


「……どうすれば良い」


 自分のしでかしてしまったことに解決策が見つからず力寿丸は呉羽に助けを求めた。


「岩を取り除くしか有りませんが、今の蹴れば武士達が攻めてきます。ここは塞いだままにしましょう。岩の高さまで上がれば、水は抜けていき水面は一定の高さになるでしょうでしょう」

「しかし、谷底の者達はどうすれば良い」

「上流の山を切り崩し、平地を作りそこへ移住して貰いましょう」

「大変な工事だぞ」

「住処が無くなる方々を思えば簡単でしょう」

「う、うむ」


 自分を見つめてくる呉羽の視線に力寿丸は頷くしか無かった。

 自分の行いを考えれば致し方なかった。


「それでは、待ちの絵図を作りますのでその通りに作ってください」

「街の絵図もかけるのか」

「はい、父から学問を教わった時に習いました。それに女官時代に街作りに携わったこともあり、知識はあります」


 呉羽の言葉に偽りは無かった。

 水位の上昇を計算して新たな街の地面を設定し、周囲の山を切り崩して埋めさせた。

 元の川は岩で埋めて地下水路にして余分な水を流し、地上にも溝をのこした。

 やがて、水が溜まると、溝には水が満ちて水路となり、船を走らせる事が出来るようになった。

 予め、谷底の水没する部分から切り出しておいた木材を使って船や建物を作っていく。

 周辺の山々を切り崩し、出た土砂は船を使い、湖に流して、上流から徐々に埋め立てていった。

 切り崩されて平らになった山の土地や埋め立てられた新しい土地に建物が建っていった。




「素晴らしい街になったな」


 新たに出来た街を見て力寿丸は感慨深く呟いた。


「西京も東京も大分できあがりました」


 二つの谷筋の合流点が岩で塞がれ湖が出来た。

 その二つの谷筋の間にある山を切り崩して埋め立てて街をつくった。

 東側にあった元の谷に出来た街を東京、西側にあった谷に出来た街を西京と呉羽は名付けた。

 他にも二条、三条、四条、五条、府成、清水、吉田、高尾、東山など都の土地の名前を新たに出来た街の町名として名付けた。

 水無瀬は都のような都市となっていた。


「畑や田も出来て、みんな喜んでいるぞ」


 これまで国府に行かなければ得られなかった農作物を自分たちの手で作り上げようという呉羽の計画が実行され、新たに出来た土地で試しに始めた。

 新しい土地のため養分が少なく、困難だったが、呉羽の指導もあり無事に芽が出て生長し、収穫できるまでになった。


「ここまで出来るとは思わなかった。さすが呉羽様だ」

「すべて皆様の協力あってこそです」


 国府と交渉して補償を得た頃から呉羽のひととなりと知識に経緯を表して化外の者達は貴女様として呉羽に対して経緯、さらに進化して信仰する者も多かった。


「その、力寿丸様まで、呉羽様と呼ぶのは止めてくれませんか」

「ではなんと?」

「呉羽と呼び捨ててください。力寿丸様」

「ならばお前も呼び捨てよ」

「しかし」

「呼び捨ててくれ、呉羽」

「……はい、力寿丸」


 静かで平穏な時が流れた。

 しかし、それはつかの間だった。


 どどーん


 突然、下流の方で大きな音が響いてきたあ。


「何事かしら」


 突然の事に驚いていると、湖の水が引き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る