第16話 大岩落とし

「攻撃の手を緩めるな!」


 攻撃の指揮を指図していた国司は、声を張り上げて命じた。

 化外の者達は、力寿丸のように油断ならない者がいる。だが、少数であり、数の力で押さえ込めば勝てる。

 武器のレベルと数の力で押さえ込むことが戦いの必勝手段であり、人間が強い理由だった。

 地形を生かして守っているが、ここを抜けば、算を乱して逃げていくだろう。

 国司はそう考え、力寿丸達の疲労を高めるため連続した攻撃を続行させた。

 作戦の効果は徐々に現れているようで相手の抵抗が弱まってきた。

 あと一日もすれば抜けるのでは無いかと考えた。


「むっ」


 だが、その時、近くの岩山に登る人影があった。

 白い狩衣を着た人物。


「力寿丸、何故」


 中心人物である力寿丸が、戦場を離れている。

 あそこからは戦場を見渡すことが出来るが攻撃できない。巨大な丸太を持っているが、投げたとしても一回限りの攻撃だ。

 偵察にしても丸太は必要ないし、巨大な岩の下で上ほど見通しは良くない。


「何をする気だ」


 力寿丸の怪しい動きに国司は警戒して中止した。

 すると、力寿丸は巨岩の根元に丸太を入れて動かそうとした。


「ば、馬鹿な、あんな巨岩を動かそうと言うのか」


 五重塔よりも大きそうな巨大な岩だ。

 それを鬼とはいえ、一人で動かすなどあり得ない。

 だが、国司は目をそらすことが出来なかった。力寿丸なら出来てしまうかもしれない。

 そんな予感が脳裏をよぎり力寿丸から目を離せなかった。


「う、動いている」


 巨岩のてっぺんが徐々に揺れ始めた。最初は小さかった揺れ幅が徐々に大きくなり、遠目にも揺れているのが分かる。

 やがて、巨岩は大きく谷側へ、戦場の方へ傾き始める。


「はああああっっっっ」


 谷に向かって傾いた瞬間、力寿丸は裂帛の気合いを入れて丸太を押し下げた。

 巨岩は大きく傾いて落下し、戦場の方へ転がってくる。


「も、者ども! 下がれ! 岩が落ちてくるぞ!」


 国司は大声で叫ぶと、我先に逃げた。

 戦っていた武士達も、はじめは国司が腰抜けになったと思っていたが、落ちてくる巨岩を見て逃げ出した。

 巨岩は谷の狭い部分に転がり込み、両側の崖にはまってようやく止まった。


「皆の者! 無事か!」


 岩が止まったのを確認した国司は、周囲を見渡し、逃げ遅れた者がいないことを確認して安堵した。

 そして、振り返って戦場だった場所を見て驚いた。

 巨大な岩が、まるで神話に出てくる巨大な扉のように道を塞いでいた。

 攻め込むことは不可能になって仕舞った。


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