第15話 騒動

「科野の国の遷都調査はどうなっていますか?」


 都にいる鏡子は部下に尋ねた。


「はい、調査に訪れた国司が追い返されたという話が出ています」

「ほう、朝廷に逆らうとはさすが化外、逆賊ね」


 科野の国に命令を出す時鏡子はわざと文面を変えて送り、調査のみのところを、立ち退きを求めるようにした。

 力寿丸達が暴発し討伐する大義名分を得るためだ。

 そして暴発させ呉羽共々、滅ぼすためだ


「朝廷に逆らう者を許してはおけません。所詮は道理をわきまえない化外達。今後この国の災いの元になるでしょう。直ちに近隣の武士を集め、討伐するように指示しなさい」

「はい!」


 部下に命じてあらかじめ準備していた武士団を送り込むように命じた。

 来れも全て呉羽を攻め殺すための策略だった。

 遷都候補地など風水でこじつけて出鱈目に言っただけのこと。

 呉羽を無き者にして競合者を永遠に葬る事だけを呉羽は望んでいた。




「放てっ!」


 大将の命令で武士達は一斉につがえた弓を引き矢を放った。

 矢は放物線を描くと力寿丸が率いる化外達が隠れる峠の辺りに降り注ぐ


「わあああっ」


 矢が当たったのか悲鳴が上がる。


「進め!」


 怯んだとみた大将が武士達を進める。

 だが、進んでいくと大木を手にした力寿丸達が峠に現れ、持っていた大木を放り投げた。


「どりゃあああっっ」


 苗着けられた大木は武士達に向かって転がっていく。

 他にも大岩などを転がして行き、追い打ちを掛ける。


「うわああっ」


 逃げ場がない武士達は隊列を乱し下がって行くしか無かった。


「ひ、ひけ!」




「連中が下がったぞ!」


 数回目の撃退に成功した化外達は歓声を上げた。

 しかし、その声には力が無かった。


「拒絶し、仲間を集めたがどうしたものかな」


 水無瀬と呼ばれる山奥へ都を移すため立ち退きを国司に求められた、という話を聞いた化外達は、力寿丸の元に集まり、遷都反対の声を上げ、実力行使を行う事にした。

 しかし、力寿丸意外に武士と戦えるような強い化外は少ない。

 今回、国司は近隣の国からも多数の武士を派遣してきており、数の前に押しのけられる。

 周囲は険しい岩山に囲まれており、通れる道は一つだけだが、集中攻撃を受けたら力寿丸でも殺されてしまう。

 何より、休みない攻撃を行ってくるため仲間の疲労が激しい。


「なんとか此処で防ぎたいが」


 力寿丸のような力のある化外が多数いれば抑えられるが、昼だろうと夜だろうと攻撃されては休む暇も無く、いつかは突破されてしまう。


「武士達が、また来たぞ!」

「伏せろ! 矢が尽きたら反撃するんだ!」


 武士達が矢で攻撃してきたら物陰に隠れ、徒の一団が登ってきて同士討ちを避けるため矢の攻撃が止んだ時に大木や岩を落として撃退する。

 この作戦も何時までも持つか分からない。

 身体の小さい化外にも梃子を使わせて、岩を落とさせているが、数が足りないし、岩を持ち上げるのに力寿丸達の力が必要だった。


「な、なんとか撃退した」


 今回もなんとか撃退したが、またやってくるだろう。


「何かいい手は無いか」


 力寿丸は回りを見渡した。

 周囲には、今にも落ちてきそうな大岩が立ち並ぶ険しい岩山の難所だ。

 あちこちに石柱があり、通るのを拒んでいる。

 かつて天から地上に降りようとした神々が、未知を塞ぐ岩を破壊して道を作った時、壊した岩の破片が降り注いで出来たと言われる場所であり、周囲には岩が多い。


「岩の扉か」


 その時、力寿丸は一つの作戦が思いついた。

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