第9話 科野の国の国司
「進め!」
山の急斜面を武士達は進んでいった。
重い大鎧を着ているため、時に斜面に足を取られ、滑るが武士達は怯まず山の奥へ向かって進んでいった。
「今日こそは鬼を退治してくれる」
武士を率いる国司は一人叫んだ。
前々から鬼による襲撃があったと報告を受けていたが山深いため、追撃は困難と考え放置していた。
だが都からの一団が襲われたことで討伐を決意。
科野の国の国府に属する武士達を集め、山狩りに向かった。
呉羽が掠われたことは問題ない。
多少の自由がきくとは言え流刑された身であり、いなくなっても構わない。
しかし、都からの一団、国の公式な一行が襲撃されたことは見逃すことは出来ない。
このまま野放しにしておけば、都の権威は落ちて、この国を支配することは出来ない。
国府を作り国分寺、総社を建設しただけでは科野の国を支配したとは言えない。
刃向かう存在や勢力を滅ぼし、律令に従わせてこそ国は成立する。
朝廷より派遣された国司は、未開拓の科野の国を開拓するためにも治安を守るべく武力で制圧し秩序をもたらそうとしていた。
だから刃向かう鬼を討伐しなければと考え、武士達を集めた山狩りを行った。
「お前ら! へばるな」
しかし、歩みの遅い武士達に国司は苛立って叫ぶ。
山の急斜面を登るのは想像以上にキツく武士達の歩みは遅かった。
彼らが身につけている大鎧は八貫――二五キロもあり、肩と腰に分散されているとはいえ身体にずしりと重い。
他にも太刀や弓を持っており重い。
従者や郎党に武器を持たせている武士もいるが従者達も重たい荷物を担いでおり、歩みは遅かった。
さらに大袖や兜などは矢による攻撃を受け止めるため外に広がる形になっているため、下草やツタが絡まり、それらを切り払いながら進むため、余計に時間がかかった。
その対処や、道でない場所、落ち葉が深く積もっている場所では脚が沈み込み、進むためには余計な力が必要になり、疲労は更に強まっていた。
「そんな事でどうする!」
国司は更に叫んだ。
同じ大鎧を着ており疲れていたが、上がへばっていたら示しが付かないと空元気であったが、大声で言う。
「これから鬼を退治するのだぞ。たどり着くどころか、もしここで鬼にあったら負けてしまうぞ!」
国司は武士を奮い立たせるべく叱咤する。
本気で言ったわけではなく、武士達を奮い立たせようと考えたからだ。
だが、すぐに言ったことを後悔した。
国司の背後に、山の上から飛び降りてきた力寿丸が着地したからだ。
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