第5話 美味なる料理

 美女はクマの肉を小さく切り分け、薄く切る。

 そして焼いた石の上にクマの脂を置いて広げ、切り分けた肉にさっと酒をかけて焼き、塩を振る。

 良い焼き加減になると皿の上に盛って差し出した。


「まずは単純に焼いてみました」

「なかなか良いな」


 口に入れた鬼は喜んだ。

 クマは臭みが強いが、酒でさっと洗ったのが良かったのか、臭みが少なく食べやすい。塩のあんばいも良く旨味が凝縮されているようだった。

 おいしくてついつい手が伸びてしまう。


「しかし、量が多いと飽きてしまうな」


 といいつつも鬼は口の中に次々と焼かれた肉を入れていく。


「なら、こちらを」


 美女は緑色のすりおろされた物を乗せて渡した。


「先ほど、この近くで見つけたワサビです。ワサビの辛みは肉に合います」

「おお、辛い。だが美味いぞ」


 舌の上に付いた肉の旨味をワサビの辛みが綺麗さっぱり消し去ってくれて、再び新鮮な旨味を再び堪能できた。


「だが、何時も取っているワサビだけだと飽きるかな」


 贅沢と思いつつも思った事を鬼は口にしてしまった。


「では、こちらをどうぞ」


 そう言って美女は赤い粉を肉に振りかけた。


「どうぞ」

「う、うむ」


 見たことのない赤い粉に鬼は少しびっくりしながら、口に入れる。


「か、辛い! だが美味いぞ」

「唐辛子の粉です。かなり辛いのですが、肉料理には合うでしょう」

「確かに美味いが」


 鬼は喜んで肉を食べていく。辛さに慣れたのかどんどん唐辛子をかけて食べていく。


「なかなか良い、お肉のようですね。では次に行きましょう」


 小麦粉を付けて焼いた。

 十分に焼いたあと、酒と砂糖と醤油を混ぜたものをかける。

 両面に焦げ目が出るまで焼いて取り出す。


「な、なんだこれは」


 嗅いだことのない匂いに鬼は怪訝な顔をした。


「照り焼きです。醤油と砂糖と酒を合わせて焼くことで焦がし、その旨味が肉に付いて旨味を増します。クマ肉に合うかどうかは分かりませんが」

「いや、美味い」


 焦げた醤油と甘い砂糖の味と酒の旨味、そしてクマ肉の味が渾然一体となって届いてくる。


「初めて食べる味だが、おいしいぞ」

「気に入って貰って嬉しいです」


 美女は心からの笑みを浮かべた。その笑みに鬼も嬉しくてつい笑ってしまう。


「うん、美味い」


 照れ隠しに鬼は、食べることを続けた。


「お前は、なかなか料理が上手いな、えーと……」


 母序の名前を言おうとして、鬼はまだ名前を聞いていなかったことを思い出した。


「……お前の名は何だ?」

「呉羽、呉羽でございます」

「呉羽か、なかなか良い名前だ。俺の名は力寿丸だ」

「はい、力寿丸様、喜んでもらえて嬉しいです」


 互いに名を呼び合って和やかな雰囲気になった。


「……あれ?」


 そこで鬼は気がついた。何故、このように掠った女に飯を食わせて貰い、当然のように食べているのか。

 もっと、要求しても良いのでは無いか、と鬼の力寿丸は思ってしまった。

 そして呉羽と名乗る美女はなかなか綺麗だし抱き心地も良さそうだ。


「あー、そろそろ。別の肉が食べたいのだが」

「クマ肉以外ですと干し肉しかありませんが」

「いや、お前の身体が食べたい」


 欲情むき出しの声で力寿丸が言った。

 

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