第4話 劇的ビフォーアフター

「な……」


 一度も掃除したことのない洞穴、自分のねぐらが綺麗に掃除されていた。

 ゴミは一カ所に纏められ、あちこちが拭かれて汗や垢が綺麗に取られて匂いが消えている。

 そして美女は鬼が持ってきた荷物を整理していた。


「あら、お帰りなさいませ」


 鬼が帰って来たことに気がついた美女は笑顔で鬼を迎えた。


「住まわせて貰うのですから勝手ながら掃除をさせて貰いました。簡単ですが、帰ってくる前に終わって良かった」

「あ、ああ、ありがとう」


 驚いていた鬼はそう言うだけで精一杯だった。


「あら、凄いクマですね。それを捕らえていたので遅くなったのですね」

「まあな……」

「食事の支度が出来ています。そのクマは処理しておきますので、河原に置いたら、どうぞ食べてください」


 そう言ってクマを川岸に鬼に居て貰うと美女はクマの解体を始めた。

 首筋を切り、血を抜くと切れ込みを入れて皮と肉に分けていく。

 四本の足を切断して分離し、腹を捌いて内臓を取り出し、胃腸を洗っていく。

 肝臓の裏にある胆嚢は丁寧に切り取り口を糸で縛った後、吊して乾かす。

 肉は取り扱い易い大きさに切り分けると、川の中に入れて冷やした。


「なかなか手際が良いな」


 美女の手際の良さに鬼は感心した。一つ一つの動作が美しく、見とれてしまう。

 だが、長くは続かなかった。

 用意された食事から漂ってくるおいしそうな匂いに捕らえられ、フラフラと向かってしまった。

 膳の上には色とりどりの磁器や漆器に盛り付けられた料理が並べられており、今まで嗅いだことのない不思議な香りが漂っており、食欲をそそる。


「美味そうだな」


 鬼は一つを手で掴み食べてみた。


「美味い」


 食べ物の中に封じられていた旨味が口の中に広がった。

 濃縮されたおいしさが溢れ、舌を包み鬼を体験したことない世界に導いた。


「これは何だ」

「饅頭です。干し肉をみじん切りにして酒で戻して小麦で作った皮に詰めて蒸しました」

「この汁物も良い」

「干し椎茸のスープです、荷物を結んでいた芋の蔓と一緒に煮込みました」

「荷を結んでいた物で大丈夫なのか。それにしても美味い、ほのかに味噌の味がする」

「予め味噌で煮込んでおいたので美味しいですよ」


 旅では荷物を少しでも減らすために、縛る縄をイモの縄にして予め味噌で煮込んでおくことがある。

 美女はそれを知っていて実行したのだ。


「こっちの奴も美味い。コリコリしていて美味い」

「干しアワビです。戻しておいたものを切り、煮込みました」

「干した物が多いがよく短時間で準備できたな」

「今夜の夕食の為に昨日の夜から予め戻しておいた物です。お口に合って良かったです」


 そう言いつつ、美女は次の料理を用意していた。

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