第3話 鬼のねぐら
「ここが俺のねぐらだ。しばらくは此処で暮らして貰うぞ」
「……そうですか」
一瞬、柔らかな笑顔が強ばったがすぐに戻った。
鬼は何故かと考えたが、すぐ鼻に入ってくる嫌なにおいに気がついた。
煙のすすけた匂い、獣の匂い、何より、垢や汗の嫌な匂いがしている。
洞窟の中でたき火をし、獲物を捌いて放置し、大の字になって寝ていた。
これまでずっと一人で暮らしていたため散らかり放題だった。
「……」
何故か恥ずかしくなり、鬼は洞窟の中の物を片付け始めた。しかし酷く汚いものや匂いを出す物だけを外に放り捨てただけだった。
何をどうすれば良いか分からなかったからだ。
「お、俺はさっきの場所に戻って置いてきた荷物を持ってくる。逃げようと思うなよ。逃げてもこの周りは険しい山々に囲まれていて、お前の足では決して逃げられん」
「はい、外に出ると危ないから、洞窟の中に居るようにとのことですね」
「う、五月蠅い!」
穏やかな笑みで本心を美女に言われて、鬼は顔を赤くした。
部屋を見られて恥ずかしがっていることも見抜かれていたが、鬼を立てて言わずにいた。
「兎に角、この洞穴にいろよ」
鬼は装言い残すと逃げるように出て行った。
先ほどより素早い足取りで険しい山々を駆け抜け、襲撃地点に向かう。
「ううっ」
足が速いのは、身軽であるばかりでは無かった。
何故かあの美女のことを思うと、そして自分の弱い部分を見られてしまうと恥ずかしくなってしまう。
そのため足が自然と早くなってしまった。
そして襲撃地点に戻るとクマが、残していった食料に手を着けようとしていた。また、中身を取り出そうとしているのか、長持に体当たりをしていた。
「勝手に食うな!」
自分の獲物を横取りしたこと、何より美女の持ち物に手を着けようとした事が腹立たしくなった鬼は、怒りにまかせてクマの頭を潰して仕留めた。
「ふん!」
動かなくなったクマを見て吐き捨てた鬼は、ようやく気分が晴れた。
「……やり過ぎたか」
少し冷静になるが、殺してしまったことは取り消せない。獲物として持ち帰ることにした。
残された無事な荷物を集めると片手に持ち、もう片方の手でクマを持ち上げると、美女の居る自分のねぐらに戻っていった。
足取りは重かった。
クマや荷物はさほど重くない。
あの汚れている場所をどうやって綺麗にするか考えていたのだが、何も思いつかない。 それでも鬼の足は人間に比べて速く、すぐに洞穴に着いてしまった。
気まずい思いで入った鬼だが、入った瞬間、驚愕の光景を目撃する。
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