第2話 輿の中の美女

「これは……」


 輿の中にいた女性の美貌に鬼は驚き言葉を言葉を失った。

 深く染め抜かれた色とりどりの衣装、金銀に輝く糸が使われまばゆいばかりで、麻のぼろ布しか来ていない鬼とは全く違う。

 だが、豪奢な衣装も添え物、来ている女性の引き立て役でしかなかった。

 彫りの深い端整な顔立ち。

 目は大きく瞳も大きく青い色をしていた。

 髪は長く、後ろで高めに纏められている。そこから垂れ下がる髪は金色に輝き、その姿は金色の滝のようだ。


「……はっ」


 呆然と目を点にして見とれていることに気が付いた鬼は、間抜けな顔をしていたと思って顔に力を入れて咳払いして言う。


「ゴホン、お前は貴人か」

「……いいえ」


 美女は力なく答えた。


「嘘を吐くな、そんな乗り物に乗り、豪華な服を着て。様々な文物を持った一団の中にいて貴人ではないとは信じられん」

「しかし、私は貴人ではありません」

「連れ去られたくないといって見え透いた嘘を吐くな。貴様を掠って、身代金を取ってやる。有無は言わせん」

「どうぞ連れて行ってください」


 美女は笑顔で、だが何もかも諦めた瞳を向けて鬼に従った。

 少しは抵抗する事を予想していた鬼だったが、素直に従ったことに疑問と、不気味さを感じた。

 しかし、手間が省けたのでそのまま片腕で担ぎ上げる。


「暴れるな、捕まっていろ」

「はい」


 美女は鬼の首回りに両腕を回す。

 不意に甘い香りが漂ってきた。

 少し間を置いてから、美女から放たれる香りであることに鬼は気が付いた。

 そして、細身ながら柔らかい身体の感触にときめいてしまう。

 鬼が思わず顔を向けると美女の顔が目の前にあった。

 切れ長の瞳に、長いマツゲ、小さくも肉厚な唇、きめの細かい肌。

 物憂げだが何処か嬉しそうで優しげな表情。


「し、しっかり捕まっていろよ」


 照れ隠しの言葉を吐き捨てると長持の荷物や酒樽をもう片方の腕に掴んだ。


「飛ぶぞ!」


 鬼はそう言うと、美女と荷物を持ったまま、断崖絶壁に向かって跳び上がった。

 勿論、頂上まで飛ぶことは出来ないが、飛び出た岩や植物を足場にして崖を登っていった。

 あっという間に崖を登り切り、その裏側の森へ行く。

 木々の間を駆け抜け、急斜面を下り、時に上り駆け抜けていく。

 そして、襲撃した場所から離れた別の谷、崖に穿たれた巨大な洞穴の中に入っていた。

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