街は眠り私は、歩く

扉を開ける。

ふわっと少し冷えた夜風が私を包み込む。

サンダルを履いた足で一歩一歩歩きアパートから出ていく。

ポケットの中には、二千円ちょっと入った財布といつも通りハンカチが一枚入っているだけだ。

背中には、ギターを背負ってどこか夢を追いかけたバンドマンの成れの果てのような格好になっていた。

ちなみに上の服は、無地のTシャツでズボンは、ジャージだ。

道路に出てコンクリートを踏みしめながら歩く。

こんな時にタバコでもふかしながら歩いていたなら多少絵になるのだろうが生憎タバコは、吸えないたちなのだ。

こんな時間帯だといないはずなのにどこにもなにも。けど感じてしまう視線があった。

丑三つ時。

いてもおかしくない時間帯だ。

怖さを紛らわす為に少し声を抑えながら歌う。

誰もが知っているような歌謡曲だ。

私を待つ”モノ”の為に歩き続ける。


      「君と夜明けが見たい」


そんな薄っぺらいポエムのようなものに縛られて私は、歩く。

ギターが肩に大分負担をかけているのか痛むので一度おろし地面に座り休む。

私が今座っているのは、河川敷の土手だ。

昼間は、賑やかなのに夜にいるとそりゃ誰もいないよなと思いながらも見る。

何度も歩いたこの土手は、いつまでもいつまでも変わっていなかった。


どこからか懐かしいあいつのギターの音が聞こえた気がした。


「よっと」

地面に手をついて体を起こす。

目的地まであと少し。

もう少しで夜明けだ。




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