Diary 4
学院へ入ってから2年が経った頃だろうか。
以前まではそこまで目立った噂ではなかったのに、近頃ミハイルの良くない噂がよく飛び交う様になった。
性格が悪い、この間は何処の令嬢を辱めた等々。
彼女がそんなことをするわけが無いのは幼い頃から一番近くにいた僕が良くわかっている。
その噂の元を調べる為にルカに動いてもらったりとしながらミハイルを気遣いつつ逢瀬を重ねた。
そうしている内にも有りもしない話が溢れてきて、流石に本人の耳にも入ってしまっているだろうと思い尋ねてみたこともあるが、
『殿下、
そう返されてしまった。
それだけならまだ不安は拭えなかったが、彼女は本当に気にしていない様子でとても伸び伸びと学院生活を送っている。
一抹の不安なんて言葉があるが全く必要はない様だった。
彼女らしいといえば彼女らしいのだが。
それでも婚約者として、ミハイルの恋人として心配をしてしまう。
もしかすると本当はとても悲しんでいるのではないか。
自宅へ帰った後に僕の知らないところで涙を流しているのではないか。
休日、公務をしている時でさえ彼女の心配をしてしまう。
「じゃあ自分の力で調査すれば?」
噂についてルカに相談をしているとそんな声が飛んできた。
「エリス…。」
「だってルカが必死になって調べてくれてるのに焦ってばっかりじゃん。だったらもう自分で動けばいいよ。その方がお前もスッキリするだろ?」
いつの間に部屋に入ってきたのか。
ズカズカと部屋の中に入ってきて文机の前まで来ると僕の目の前に仁王立ちした。
「でもその間に何かあったら」
「セリスがミハイルから離れてる間はわたしが側にいるよ。何かあれば逐一トーマスに伝えさせに行く。」
トーマスとはエリス付きの側近だ。
ルカに負けず彼も優秀で幼い頃はルカと共に側近候補の一人だった。
まぁそれは兎も角、エリスの提案は別に構わないのだが彼自身に疑問が生じてしまう。
「でも騎士団はどうするの?折角隊長に昇格したばかりでしょ?」
そう、エリスはこの間の武術大会の功績で騎士団長から一個隊を任せられることになっていた。
エリスは昔から剣術が好きで、将来は立派な騎士になるのだと小さい頃から言っていたが、それは大きくなってからも変わらず、学院へは進まず騎士団へ入団した。
折角隊長にまで上り詰めたのにそれをあっさりと手放すなんてそんな惜しいことはさせられない。
「その件は一旦保留にして貰ってる。」
「保留?どういうこと??」
「ちゃんと試験を受けたわけじゃないのに昇格したって嬉しくないよ。だから保留。次の昇格試験まで半年あるからその間はセリスと同じ学校に行こうかなと思ってたところなんだ。」
家庭教師の授業はつまらないし。
そう付け足して笑うエリス。
「ほんと、お兄様は手が焼けるよ〜。こうでもしないと踏み出せないんだから。」
やれやれと首を振るも表情はとても楽しそうにしている。
エリスには気を遣わせてばかりだな。
今回ばかりは強がらず甘んじて申し出を受けよう。
「ありがとうエリス。よろしく頼むよ。」
いつだって僕はエリスに助けてもらってた。
だから僕もいつかエリスが困ることがあれば直ぐに助けるよ。
言葉にしなくても伝わったのかエリスは歯を見せて笑った。
それからまた数日が経ち、僕は本格的に調査に踏み出した。
最後にミハイルに会った時にワザと芝居を打ち、ルカの口から『接見を控えるよう』伝えてもらった上でミハイルからの誘いを受けられないようにした。
ミハイルにも、そう言わせてしまったルカにも申し訳ない気持ちが溢れてくる。
だがここでクヨクヨはしていられない。
下校時、調査中に浮上した妙に僕に近づこうとする令嬢に接触した。
彼女の名はアイリーン・ルメルシュ。
ルメルシュ男爵家の息女、正確に言えば養子となった元平民出身の女性だった。
ルカに彼女を呼び出させ、校庭に生えている樹の元で彼女が来るのを待つ。
あぁ、今頃ミハイルは一人で馬車に乗って帰ってるのだろうと思うと心が苦しくなる。
「直ぐに解決させるからそれまでの間は許して…。」
一人誰もいない空間に懺悔をしていると、明るい声が飛んでくる。
そこへ顔を見遣れば呼び出した女性が立っていた。
「あの、初めまして!皇子様にお呼ばれされるなんて何だか夢のようです。」
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