Epilogue
本当に何をお考えになっているのか見当もつきませんわ。
戸惑う私とは逆にエリス殿下は勿論の事、イヴァノン嬢も何故か不敵な笑みを浮かべていた。
「そうです。あの様なふしだらなご関係をお持ちの方達といるだけで時間の無駄。」
その言い方は不敬罪に問われるのでは?
そんな心配をしているとエリス殿下に腕を掴まれスタスタと食堂の中へと連れて行かれた。
あれよあれよと席と食事を用意され、エリス殿下とイヴァノン嬢と共に昼食を取っているこの状況に思考が停止しかけている事だけはよくわかった。
騒ぎという騒ぎでは無かったものの、先程の殿下達と私たちの問答が周りをざわつかせてしまったのは確実だ。
コソコソと何かを言われるのは慣れていたつもりですが、何だか改めて感じるととても悲しくなります。
「ミハイル。」
静かにシルバーを置いたエリス殿下から声をかけられた。
「何でしょうか?」
「そう言えばここの生徒から裏で“極悪令嬢”なんて呼ばれてるんだっけ?」
ルカにも同じ様なことを言われた気がしますわ。
急にそんなことを言い出してどうしたのでしょう。
私はあまり気にはしておりませんでしたが、エリス殿下も私の謂れ無い噂をお聞きになったのでしょうか?
なんだか不安ですわ。
何を言われるのかとソワソワしていると、堪えきれなかったのかエリス殿下は少し噴き出す様に笑った。
「そんな強張らないでよ。ただ、なんだか似合うなぁと思っただけ。」
「貴方、女性に対して失礼が過ぎますよ。」
空かさずイヴァノン嬢がエリス殿下を睨む。
「別に悪口を言いたいわけじゃないよ。ただ今の状況って面白くないでしょ?謎にミハイルを悪者扱いしてるのも。だからそんな人たちを懲らしめないかい?」
懲らしめる?!
「エリ…アーバス卿、私は別に他の学友の方を傷つけようとは微塵も思っておりませんわ!」
恐ろしい提案に私は必死に抵抗したが、さっと二人に諌められる。
「その優しさが周りを付け上がらせてるんだよ。テレーゼちゃんもそう思うでしょ?」
「そうですね。ジェーンハルト様のそのお優しい性格は美徳でもありますが、よろしくない面もあります。」
そうなのでしょうか…。
お父様から優しくも時には厳しくと教えを説かれてはいましたが、それでも優しさのほうが大きいということなのでしょう。
然し、今まで私自身が誰かから傷つけられた訳でもありませんし。
それに人の悪口を言うと自分にも報いが返ってくるものだと以前家令のフィンも言っていました。
「だからといって他人を傷つけるのは違うと思いますわ。」
「まぁ、そうだよね。本当にミハイルは優しい女性だよ。」
軽く私の頭を撫でるエリス殿下。
何だか子供扱いされているような気分になりますわ。
「じゃあこういうのはどう?悪役令嬢ごっこをするってのは。」
「悪役令嬢ごっこ?」
何ですかそれは。
新しい遊びでしょうか?
でも、それと私が優しいということとどう関係があるのかしら??
「厳しく出来ないのならなりきるしかないでしょ?だからロマンス小説とかによく出てくる悪役令嬢とやらの真似をするんだよ。」
じゃん、と効果音をつけながら小説を見せて解説をするエリス殿下。
成る程、それなら私も他の方に少しは厳しくなれるかもしれませんわ!
「淑女たる者、それくらいはできますでしょう?」
イヴァノン嬢が挑発的な笑みを浮かべながら私へそう言ってくるということは、もうこの瞬間から始まっているのですね。
ジェーンハルト公爵家息女、ミハイル・ジェーンハルト。
完璧に演じきってみせますわ!
「当然。この私にできない事などありませんわ。」
そう言うと、ややつり上がった目を妖艶に細めながらクスリと笑ってみせた。
こうして極悪令嬢ミハイル・ジェーンハルトが生まれたのであった。
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