Episode 9


 翌日。


「ご機嫌よう、エリス殿下。これは随分お早いお越しですわね。」


「おはよ〜!さ、一緒に学院に行こう。」


 エリス殿下は私の手を取ると自身が乗ってきたであろう馬車へ乗せた。


 また明日とはこの事だったのですね。


 ですが疑問が一つございます。


「私エリス殿下を学院内で拝見したことが一度もございませんが、入学されていたのですか?」


「ううん。今までは帝国騎士団にいたけれど、陛下に頼んで特待で今日から編入させてもらった。」


 何と!


 皇族ロイヤルファミリーはやることが破天荒ですわ。


 それに特待と言うことは特級クラスに編入されるのですね。


 因みに殿下もエリス殿下と同じ特級クラスで私は一般クラスです。


 そこまで学があるわけでは無いので残念ながら殿下とは同じ学級にはなれませんでした。


「ホントはミハイルと同じ学級が良かったんだけれど学院側が煩くてさ。寂しすぎて死んじゃう。」


「そんな滅相なことを仰らないでくださいませ。」


 そんな他愛もない話をしながら学院へ向かう。


 そんな日々が暫く続くとやはり噂が流れる訳でして。


 学院での私の評判は更に悪くなっていた。


「殿下がいながら他の殿方と歩いてるなんて破廉恥な。」


「それに満更でもないお顔ですわね。とんでもないお方だわ。」


 私が歩いた後の道はそんな言葉ばかりが飛び交う。


 別に仲が良いだけなんですけれどね。


「ジェーンハルト様。幾ら殿下がルメルシュ嬢と居るからと貴女様自身も同じことをしてはいけませんよ。」


 周りからコソコソと言われてしまう事は慣れてしまっていますが、まさかイヴァノン嬢からも言われてしまう日が来るとは夢にも思っていませんでした。


 何故か私から会っている風に言われてしまっている…。


 完全な誤解ですわ!


「イヴァノン嬢、私は別に会いたくて一緒にいる訳では」


「ミハイル〜。ご飯食べよっ!」


 タイミングが良いのやら悪いのやら、私の学級にエリス殿下が元気よくやって来た。


 これ以上誤解を生むのは御免ですのに、どうしたものでしょう。


「貴方ですね、最近ジェーンハルト様とご一緒されているのは。」


 もともと切れ長の目を更に細めてエリス殿下をめつけるイヴァノン嬢。


 わざとなのか気づいていないのか…後者は有り得ないですわね。


 エリス殿下は然程気にすることなくいつもの陽気さで話し始める。


「ミハイルとは幼馴染だからね。そう言う君こそどちら様?」


 言ってることと声色が合わなさ過ぎます。


 逆に怖いですわ。


「…。イヴァノン伯爵家息女テレーゼ・イヴァノンと申します。ジェーンハルト様とは“懇意”にさせて頂いております。」


 それに対してイヴァノン嬢は恐ろしい程冷やかな声で自己紹介をする。


 令嬢のこんな声初めて聞きました。


「ご親切にどうも。折角名乗ってくれたし、わたしも名乗っておこう。ルドルフ・アーバスだよ。」


 当然のようにそう答える殿下に私の脳は一時停止を余儀なくされた。


 彼は以前私に皇族であると言ったのに対し、ここでは爵位第五位である男爵家アーバスを名乗った。


 どういう事なのでしょうか??


 私の疑問を余所にエリス殿下とイヴァノン嬢の会話は続く。


「あら、アーバス家の方でしたか。高位の方へのその馴れ馴れしさ、どこかの誰かさんとソックリですこと。」


 エリス殿下のそっくりさんなんていらっしゃいましたっけ??


 もう何だかエリス様のことがよく分からなくなってきましたわ。


 私の前では皇子と言い、学院では男爵家と言う。


 イヴァノン嬢が素直に男爵家と認識されているということは一部の方達のみ皇族だということを明かされているのでしょう。


 しかし何故身分と名前を偽っているのでしょうか?


 謎ですわ。


 そんな事を悶々と一人考えている最中もお二人の会話は険悪なものになっていった。


「最近話題の男爵令嬢様のことかな?あんなアバズ…愉快な方と一緒にしないでよ。わたしだって親しくする人は選んでいるさ。」


「………貴方、顔に似合わず口が悪いのね。」


「それは褒めてくれてるのかな?」


「批判しているんですよ。貴方の頭の中はお花畑ですか?」


 これ以上放っておくと宜しくないことは私でもわかります。


 お二人の仲裁に入り互いを落ち着かせないと。


「その位でやめに致しましょう。紳士、淑女として格好がつきませんわ。」


 とんとん、と二人の方を軽く叩くと渋々了承して引き下がってくださいました。


 そう、本当はとても優しい方達なのだから小さいことで争っては勿体無いですわ。

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