過去をやり直せるお茶いらないか?

「なあ、過去をやり直せるお茶いらないか?」

そう声をかけられたのはつい一か月前のこと。

見たことのない顔の男だった。どうやら最近ここにきたらしい。

その時私は顔をしかめていたと思う。

「過去をやり直せるお茶だよ。」

男は小さな缶を取り出した。

中には何の変哲もないティーバックがいくつか入っている。

「試しにひとつどう?人生で三回しか使えない特別なお茶だよ。」

その言葉に私は興味を示した。ここには過去をやり直したい奴が大勢いるだろう。

私もそのうちのひとりだった。

過去に戻れるかどうかは運しだいだそうだが、男に言われるがままひとつお茶を買うことにした。

かなり高価だったため、少し不満を漏らすと

「ここに持ってくるのが大変なのわかるだろ?」

そう言って男は肩をすくめたが、初めてだったので少し安くしてくれた。

一回目と二回目を失敗して、私は今三回目のお茶を入れている。

プラスチックのコップに入ったお湯に少しずつ色がついてくる。

ぼーっとしながらそれを眺めていた。もう失敗はできない。

男に言われた通り、お茶を飲み干してベッドに横になる。

やり直したい過去を強く思うと、あの日の友人の部屋がぼんやりと浮かんできた。

あの時友人は外出していて、私は部屋にいてほしいと言われて待っていた。

もう日付か変わろうとした時、友人は血だらけで帰ってきて「大丈夫だから。」と言った。

その言葉を鵜吞みにした私は友人のアリバイ工作に使われていた。

お人よしだった私はあっという間に殺人犯に仕立て上げられてしまった。

やってもいない犯罪で刑務所に入った私は無気力な日々を過ごしていた。

点呼の放送で目が覚めた私は三回目も失敗に終わったことに気づき落胆した。

数日後、お茶を売っていた男が殺されたことを知った。

同じ棟の人に話を聞くと

「あの売ってたお茶、普通のハーブティーでだったみたいですよ。それを知った囚人たちがリンチしたって。」

それを聞いて私は肩を落とした。その人は続けて言った、

「あの人何で捕まったか知ってますか?詐欺やってたみたいですよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

単なる短編集 猫家 凪 @umeuguisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ