第18話 姉たるもの
小さなフラァマ。
わたくしより小さいのに、わたくしより物知りで色んなことができる。
魔女リンゴは必要なことは教えてくれた。
両親の心配は不要。
踏み絵のようなもので、伯爵当人が王都に出向くだけで潔白と見做される。王家の権威を誇示することと、王と伯爵との関係が揺るがぬことを内外に宣伝する目的だろうと。
そんな風にお父様や周囲の者も言っていた。
見かけによらず、と言うのも悪いのだけれど、意外と俗世の政治にも明るいのだなと思った。
――それに、あたしが言ってやるさぁ。阿呆がいらんこと考えたって不細工な踊りが関の山ってもんだ。
気落ちして生返事だったわたくしに、元気づけるように言っていた……のだと思うのだけれど。
思い返すと少し違うような気がする。
あの方はもう少し違うものが見えていたよう。
――なんにしたって、魔女の話も聞かんようじゃあこの国も終わりさね。
有名な魔女は、滅多に街に姿を現さない。
俗世に興味がないという人もいれば、魔女狩りを恐れているという人もいる。
後者の意見を肯定する人は少ない。
過去の歴史で、危険な力を持つ魔女を排除しようとした国があった。
魔女の警告は王権も超えかねない影響力。それを嫌ってのことだったとか。
結果、その国から魔女は去り、その首都だった場所には荒野だけが残っている。たった一人の魔女を殺しただけで。
手を出さなければ政治に口出しするようなことはない。
それに手を出して手ひどいしっぺ返しを受けた愚かな王の国。その事実は多くの国々に伝わっている。
魔女リンゴが弁護してくれるのなら心強い。たぶん本当にわたくしの家族の心配はない。
ただ――
――あんたは、戻らんがいい。
断言された。
どうしてか尋ねようとしたわたくしの目を見て、リンゴは何も言わなかった。
とても遠くを見るような瞳で、何も言わず。
そうなのだろうと思った。
だからわたくしは森の魔女の弟子としてここで生きると腹を括った。
どれだけ不便でつらくても、泣きを上げたりしないと。
まあ気構えはそうだったのだけれど、実際に急に生活が変わったのだから少しくらいの弱音や不満は許してほしい。
フラァマを初めて見た時、妹ができたと思った。
わたくしの近くにはお姉様やメイドのように年上の女性は多かったけれど、少し年下の少女は初めて。
頑張ろうと思ったけれど、フラァマはわたくしよりずっとよくできた女の子で、姉と名乗るにはわたくしは全然ダメ、役者不足。
猪狸をやっつけた後、フラァマはもっと厄介な忌吐きをやっつけていて。
怪我をしたわたくしに駆け寄り、真っ白な顔色で尋ねたのだ。まるで怪我をしたのはフラァマ自身みたいに。
大丈夫ですわ、フラァマ。
あなたのお姉ちゃんは結構強いんですのよ。
いつかそんな風に言ってあげたい。
だからもっと、わたくしは強くならなければいけませんわね。
◆ ◇ ◆
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