第19話 失敗の産物
「さ、さすがにこれは……」
「……どうですの?」
薄っすらと曇る空から朝日が差し込む。
畑に影を差して。
一部にひときわ大きな影を作って。
「……異常です」
先日も気になった、畑の中の魔里参がひとつだけ妙に大きくなっていると。
塩を取って帰った翌日にはさらに大きく。もう少しでフラァマの腰を超えるくらい。
普通なら赤色の根菜。
どんなに大きくてもフラァマの膝くらいまで。それでも大きすぎるくらいなのに。
「枝分かれした根だけでも、普通の魔里参くらいあります」
「どうしますの?」
「どうって……」
聞かれても困る。今までこんなもの見たことがない。
何が原因でこんなことになったのか。
「……熱石、ですね」
「熱石?」
思い出した。いつかルーシャが放り投げてしまった熱石のことを。
ちょうどこの辺りに落ちた。おそらくあの時にこつんと魔里参にぶつかっていたのだろう。
ルーシャが込めた力はフラァマが思ったより強かった。やはりルーシャは魔女として特異な力を秘めている。
おそらくそれが変な風に作用して、魔力を溜めたり増強する性質のある魔里参をこんな風にしてしまったのだ。
「とにかく仕方がありません。これは捨てます」
「捨ててしまうの?」
「熱石を外に出したのがお師様に知られてしまいます。どんなお仕置きを受けるか、あぁ……うぅ」
面倒なことになった。
そうだ、熱石は込めた人の力を他に放つのだとか。お湯を沸かすのに使っていたけれど、植物に当てるとこんなことになるのか。
いや、これもたぶん不測の事態。決まったことではなくて、妙な力が妙な形に転がった結果。同じことをしても同じ結果にはならないのだろう。
ただ魔里参が大きくなっただけならまだ良い。
爆発して畑全部を台無しにしていた可能性だってある。魔法の植物というのはそういう危険も備えたあやふやなものなのだから。
「引っこ抜いて刻んで、仕方がありませんから焼いてしまいましょう」
「火を使う?」
「竈にくべて……いいえ、それも危険かもしれません。裏で焼いてなかったことに」
調理場には火がある。火を使わない加熱道具もあるけれど、代わりに魔法と気を遣う。
燃やすついでにと思ったけれど、家の中で異常種の魔里参に火をつけるなんて、それこそ大惨事になりかねない。
「……なんです?」
頭を悩ませていたら、なんだかルーシャの顔が楽しそう。
フラァマが困っているのに。
「あなたでも、失敗を隠そうとするんですのね」
「隠すわけではありません。お師様がいない今は私が森の魔女。森の異変に対処するだけですよ」
「ふふっ、悪い子」
「別にいいでしょう、誰も困りません」
火を使うのは最小限とは言っても、やはり燃やすことはある。
焼いた土壁で覆った囲い。裏にあるそこなら周りに火の粉が散ったりしないし、燃え移るものも近くにない。
ああ、でもやはり火は危険かも。
刻んで川に流してしまおうか。
流れた先で何かあっても、まあそこまでひどいことにはなるまい。どれだけ悪くとも異様な魔物の死体が流れついた程度の異変で済むはず。
世界の各地で、そんなことだってある。それらの一つ。
「とりあえず引っこ抜きますから、手を貸してください。怪我はもう――」
「……いで……」
腰ほどもある魔里参。一人で抜くのは大変だから手を借りよう。
ルーシャがいてくれてよかった。いや、この厄介はルーシャが発端だけれど。
声をかけたフラァマに、返事の声はかすれて聞き取れない。
「ルーシャ、手を」
「違いますわ、フラァマ……」
何を言っているのかと振り向けば、ルーシャは震えながら指差している。魔里参を。
「わたくしではなくて、その子……」
「ころさ、ない……で……」
飛び退いた。
足元から聞こえた声に、大きく後ずさる。ルーシャの腕を掴んで一緒に。
「まさかっ!?」
「ころさないで……おねえちゃ、ん……」
赤みがかった魔里参の表面。横の筋のような亀裂が開いて、瞳と口が。
少女の顔が浮かび上がっていた。
「喋っていますわ、この子」
「そんな……」
信じられない。信じられないけれど本当に喋った。
殺さないでと訴える。知能がある。
「邪妖なんて……」
「お姉ちゃんって言いましたわ」
「近づかないで下さい、ルーシャ」
きっかけは結界が切れている間のことだった。
ルーシャの投げた熱石で妙な生命力を得た魔里参に、別の何かが宿った。そういうわけか。
「おねえちゃん……ころさないで、ね」
弱々しく訴えかけてくる魔里参の顔は幼い少女のようで、それを見るルーシャの顔は戸惑いながらも優しさを強くしていて。
「近づいてはダメです、ルーシャ」
そっちにいかないでと、ルーシャの腕を強く掴んだ。
何も知らない妹弟子が間違った方へ行かないように。
◆ ◇ ◆
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