第36話 夢の中で

 ――エリザベスは夢を見ていた。




 そこでは自分がフレデリックの部下に捕まり、口を塞がれている。




 目の前では、アルヴィスがフレデリックやマルコたちと対峙し死闘を繰り広げていた。




 悔しい。素直にエリザベスはそう思った。




 なんで自分は捕まっているのだろう。本来私がそこで闘っているはずなのに、と。




 今まさに、目の前の彼にいくつもの魔法が襲いかかろうとしている。




「危ないッ!!」




 彼女は叫ぶが、その声はアルヴィスには届かない。




 魔法を避けきれなかった彼は、ふくらはぎに命中してしまいその場に倒れ込む。




 痛みに苦しみもがくアルヴィスに、エリザベスは思わず手を伸ばした。




 すると、自分の手が視界に入る。




 ――おかしい、今私は捕まっているはずなのに。




 エリザベスはそう思った。フレデリック部下に口は塞がれ、背中側で組まされている腕には枷もはめられたままだ。




 手を伸ばせるはずがない。




 ここでエリザベスはあることに気がついた。




 見覚えのある光景にあまり気にしてはいなかったが、今、自分の姿を客観的に見ていたことに。




 伸ばした手を改めて見ると、うっすら透けているように見える。




 まさか自分は死んでいるのでは? と彼女は思うが目の前にその姿がある。死んではいない。




(じゃあこれは……夢……? 私は過去の夢を見ているの?)




 エリザベスは自身の体験した過去を今改めて夢で見ているのだと理解した。




 ――明晰夢だ。




 彼女は倒れているアルヴィスのもとへ駆け寄り、苦しむ彼に触れようと手を伸ばすが、手は身体を通り抜けてしまう。




 エリザベスは手を引っ込め、今度は声を掛ける。




「逃げて、アルくんっ。私なら大丈夫」




 この時、部下に捕まるエリザベスも何かを叫んでいた。彼女もまた、今のエリザベスのようにアルヴィスに逃げて欲しかったのかもしれない。




 するとフレデリックが何やら部下に命令し、捕まるエリザベスに何かしだした。




 それを見たアルヴィスが、途端に表情を変えた。




「どうしたの、アルくん?」




 アルヴィスの表情からエリザベスは振り返り、捕まる自分を見る。




「ヤメロぉぉオオォォっっ――!!」




 ――ズプッ……!




(あ……っ――)




 アルヴィスが真っ青な顔で叫んだ先には、エリザベスが喉を貫かれている光景がひろがっていた。




(そうだ……私、あのときあいつに刺されたんだ……。死ぬ、のかな……?)




「うおっ、ぐぉっ、ぬぅ、ぬああァァああぁぁッッッ――――!!」




 突然、アルヴィスが悲痛にも似た嘆き声を上げると、エリザベスの視界が真っ白な光に包まれ世界と隔絶する。




 数瞬の後、光が止み視界が徐々に回復していくと、そこには新たな光景が映る。




「またアルくんと――あれは、私?」




 視界がひらけたエリザベスの視線の先には、長椅子に横たわる自分の姿と、手を握り泣いているアルヴィスが映る。




「やっぱり私、あの時死んじゃったんだね……」




 エリザベスは横たわる自分のもとまでゆっくりと歩き、その椅子に腰掛けた。




「ごめんね、アルくん。私、君の役にたてなかったよ」




 聞こえないとわかっているが、エリザベスは話し続けた。




「ごめんね、アルくん。あの時の恩、返しきれなかった……」




 エリザベスはアルヴィスと初めて会ったあの森でのこと、そして孤児院での数日を思い出していた。




 次第に話すその肩は震え始めていた。




「ごめんね……アルくん……。……私っ、わたし……っ――」




 エリザベスは目元の涙を拭い――――微笑んだ。




「生きたかったなァっ……!!」




「――巻き戻れェええぇぇっ!」




「ッ――!?」




 その時だった。アルヴィスが叫びながら横たわるエリザベスに不思議な魔力を放出しだした。




 すると、首の穴が尋常じゃない速度で治り塞がっていくのだ。




 その光景に、エリザベスは思わず自分の首を触り確認してしまう。




「うそっ……嘘だよっ……だって、あんな傷……絶対治りっこないッ!」




 暫くすると、横たわるエリザベスがゆっくりと眼を開く。




「そんなっ……でも、そっか……。また、君が救ってくれたんだね――アルくんッ」




 エリザベスは目の前で起きたありえない光景に、アルヴィスが2度も命を救ったという事実に、そして、生き延びれたことに涙し、両手で顔を覆い俯く。




 そこでまた周りが光に包まれ、視界が、世界が終了した。

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