第14話 確率
「たかがDランク相手に1度勝ったくらいでなんだと言うんです。それも模擬戦。殺傷もダメな上にサーヴァントも使えない試合ではロキも実力の半分も出せたかどうか――時間の無駄だ」
ロベルトは腕を組んだままとてもつまらなさそうに言葉を言い放つ。
「さっきから聞いてればランクがどうだの試合がどうだの好き勝手に……しかも俺との試合が無駄だって……?」
アンヴィエッタとロベルトの会話を地面にあぐらをかき聞いていたアルヴィスは、自身の両膝にそれぞれ手を置き俯きながらぽつりぽつりと、けれど一言一言にしっかりと怒気を孕ませ喋りだした。
(さすがにこれだけ上から言われると頭に来るぜ……。首席ってのも気になるしな。仕掛けてみるか?)
アルヴィスは前髪の隙間から覗くようにちらとロベルトの様子を窺う。ずっと壁に寄りかかり腕を組んだままだが、今は眼を瞑っているようだ。
(余裕見せすぎだろッ――!)
アルヴィスは地面に落ちている小石を音をたてないようにそっと拾い、ロベルト目掛け指で弾き飛ばした。その礫つぶてには魔法がかけられ時速80Km程の速度で飛んでいく。
だが、
――キンッ!
(なッ!?)
金属音を響かせ礫は地面に転がっている。僅か数メートルの距離での一瞬での出来事に、しかけた本人のアルヴィスがこの場で1番驚いていた。
(剣……だと……。そんなものどこから……。いやそんなことよりもむしろ礫を避けずに弾きやがった。この距離で油断しているところを狙ったのに一瞬で……)
「何をそんなに驚いている。こんな物が俺に当たるとでも思っていたか?」
ロベルトはその持っている剣で礫を突き割り粉々にした。
(さすがは〈剣帝〉の弟――いや、ロベルトと言ったところか。ただ小石を飛ばしただけなら命中したかもしれないが、魔力が宿っていてはCランクともなれば身体が勝手に反応する。だがまさかあの至近距離で弾くとはな。剣速はすでに〈剣帝〉並か?)
アンヴィエッタはまるでロベルトの実力を測るように眼鏡の奥に潜む両眼りょうまなこで眼光鋭く観察していた。
(それよりも、だ――坊やのあの礫には確かに魔法がかけられていた。あいつの魔術は身体強化系速度上昇魔法ではないのか? 今までの速度アップは魔力によるただの身体能力向上によるもの? それともまた別の何かか? 何にせよこの2人――)
「ククっ」
(――今年は面白くなりそうだ)
アンヴィエッタは腕を組み俯きながら愉快そうに小さく笑うと、顔を上げながら眼鏡のズレを直す。顔を上げる際に眼鏡を直すのはアンヴィエッタの癖のようだ。
後方で笑われていたそんな2人は気付く事なく対峙している。いや、睨んでいるのはアルヴィスのみでロベルトにはまるで相手にされていなかった。
ロベルトは礫を突き割りそのまま地面に刺さっている剣に手をかざした。すると剣が青白く発光し一瞬で光の粒になるとパァと拡散し消えた。
もとからこの場に剣など1本も存在していなかったかのようだ。
「おい――」
ロベルトは冷めた口調のまま今まで凭れ掛かっていた外壁から1歩離れると、アルヴィスに向き直りつつ話し掛ける。
その表情は先程までの無とは一転、明らかな敵意が感じられた。
それも仕方のないことなのかも知れない。魔術師のランクとは爵位のように上下間系がはっきりとわかれるもので、それは即ち力関係もはっきりとしているわけなのだ。
そんな爵位もランクも下だと思っているアルヴィスに石礫というまるで馬鹿にしているような攻撃を仕掛けられたのだ。無視するほうが難しい。
「――気が変わった。お前の望み通り相手をしてやる。ただし、貴様が負ければ殺すがな」
ロベルトはそう言うとアルヴィスに背を向け演習場へと向かって行った。
「良かったじゃないか坊や。これで思う存分やつと闘えるぞ?」
「――!? ああ、そうだな」
アルヴィスは腕を組んで近付きながら話し掛けてきたアンヴィエッタの存在を、まるで忘れていたかのように驚きつつ、尻の埃を払いながら立ち上がる。
「どうみる? 先生」
「――10%」
「は?」
「下のランクが上のランクに勝つ確率だよ」
アンヴィエッタは眼鏡を直しつつ話を続ける。
「ランク昇進の仕組みに当てはめれば、ロベルトはロキ10人分の強さということになる。つまり先程ロキに勝った君をロキと同じDランクと考えればロベルトはCランク、単純に考えて10倍の強さということになる」
「ランク昇進の仕組み? Dランク? ――何がなんだかさっぱりだ」
とりあえず考えるだけ考えてみたが初めて聞くことばかりで頭を掻きながらアルヴィスは思考を停止した。
そんなアルヴィスを見たアンヴィエッタは溜息を吐きつつ頭を振り、眼鏡を直し「調べておけ」と一言漏らすと、
「あいつは強い――既に1年生レベルを超えているからな。天才だよ」
「おいおい……」
「それに比べ坊やはFランクのうえ爵位無しだ。負ければほんとに殺されても文句を言えんぞ? それほどの侮辱行為だからな、貴族に手を出すというのは。まぁ、死にさえしなければ治してやる。精々頑張りたまえ」
最後はほとんど背を向けつつ手をひらひらと振りながら演習場入口に向かうアンヴィエッタ。その彼女の背を眺めつつアルヴィスは尚も思ってしまうのだ、
「負ける気がしねぇ」
――と。
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