第4話 模擬戦・1
アルヴィスは演習場入口まで走り着くと、さすがに2km程ある距離を全力で走り続けるのは相当に疲れたようだ。肩で息をしながら演習場内に入る。
フィールドには8組程の利用者の姿があった。
アルヴィスはエリザを見つけるため、キョロキョロと場内を見回しながら歩くとすぐに見つかった。
エリザはフィールド中央を1人陣取っていた。というよりも、どうやら他の生徒がわざと距離を大きく開けているためエリザが孤立している様に見えるのだ。
手を腰の辺りで組み片脚をぷらぷらと振りながら待つその姿は、とても19歳になる女の子には見えずもっと幼い印象をアルヴィスに与えた。
アルヴィスが10m程の距離まで近づくと、エリザも気配で気づいたのか俯き地面を見ていた顔をハッとアルヴィスへと向け近づいて来る。
「やぁやぁ後輩君、私に何か言うことはあるかな?」
「すまん! 寝過ごした」
アルヴィスは頭を下げ、両の手のひらを頭より高い位置で合わせる。
平謝りを決めた姿勢だ。
アルヴィスの姿勢を見たエリザは嘆息程ではないが小さく息を吐く。呆れたというよりは、幼子の悪戯を許す親の様な表情をしていた。
アルヴィスの流す大量の汗を見てどれだけ急いで来たのか察したのだろう。
そんな表情をしているエリザを頭を下げているアルヴィスには確認出来ない。つまり既に許されていることが分からないアルヴィスは、何の反応も返ってこないのでエリザの機嫌を窺うようにゆっくりと頭だけを上げた。勿論両手は合わせたままだ。
「あ、あれ……?」
頭を上げた視界には、先ほどまで目の前に居たエリザの姿がない。
「おーいっ、早速始めるよ!」
慌てているアルヴィスに、エリザは10m程離れた距離から片手を振り叫ぶ。
(許してくれた、のか?)
「始めるって何をだ?」
「まずは君の魔法ちからも知りたいし、戦闘スタイルも分からないから模擬戦からしてみよう」
「実戦ってわけか。OK、いつでもいいぜ」
アルヴィスは手首足首を廻しながら首を左右に振りポキポキと鳴らしながら準備運動をしつつ応える。
「道具アイテムの用意はしていないけど、大丈夫?」
「ああ、問題ない」
アルヴィスの返事にエリザは片手を上げ応えると、制服の上着右ポケットからコインを取り出し親指で空中に弾いた。
どうやらコインが地面に落ちた瞬間が開始の合図のようだ。
アルヴィスは半身になり戦闘体勢ファイティングポーズになった。右脚を後ろに引き、右拳は緩く握り顔よりやや下に位置する。前手の左手は開いたままだ。
いかにも格闘技のように殴り合うことが前提の体勢スタイルだ。
一方エリザはというと、以前に見せた淡い青白い光を纏い、構えることもなくただコインの落下を見つめている。
トスッという極々小さな音を鳴らし地面に落下した。コインが放たれてからその間僅か5秒程だ。
そして開始と同時に───
「…………」
「…………」
どちらも動かなかった。
「あれ……? 掛かって来ないの?」
僅かな沈黙を先に破ったのはエリザだった。
「いやー、相手の何の情報も無いなかで開始早々いきなり飛び込むなんて、早死にするタイプだぜ」
「君は違うんだね?」
「どうだかな?」
(アンヴィエッタ先生が気にしている人みたいだし、かなりの実力者ってことは間違いないんだ。願わくばエリザから掛かってきて欲しかったけどな)
「ふーん……まぁ、いきなり飛び込む様なことをしてたら確かに一瞬で終わってたかもね」
「はは……っ」
アルヴィスはエリザの発言に冷や汗を頬に流しつつ、わずかに安堵した。
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