第6話 結界の外
隠しの里は、一度結界から外に出ると妖怪や幽霊と遭遇することがある。
そのほとんどは、低級か中級の比較的力の弱いものたちだ。
霧の発生しやすい山ではあるが、見習いの陰陽師や術者が修行を行うには最適の場所である。
陰陽師としてすでに一人前以上のレベルに達している刹那も、日々、この山で鍛錬を積むのが日課だ。
「呪受者のくせに!!!」
刹那が風を切るように扇子を振り下ろすと、太い幹にまるで刃物で引っ掻かれたような傷がつく。
刹那が常に持っている扇面が赤く親骨が黒いこの扇子は、春日からもらった術具。
術者の扱い方一つで、様々な武器になる。
「あんなのが呪受者だなんて、絶対に認めないんだからっ!!」
溜まった鬱憤をぶつけるように、何度も何度も扇子を振り下ろし、刹那はそう叫んだ。
「私の方が、強いのに……——」
刹那が颯真に対してあたりが強いのは、颯真が呪受者だからだ。
呪受者である颯真の祖母である飛鳥からしたら孫の世代————
呪受者は直系ではなく、その世代の中で一番力の強いものに受け継がれる。
幼い頃から隠しの里で育ち、誰よりも陰陽師の勉強に熱心であった刹那は、それが悔しかった。
どうして、この里で育っていない颯真が呪受者なのかと、憤りを感じていたのだ。
今この里で呪受者として生まれる世代なのは、飛鳥の双子の妹である春日の孫、または双子の姉妹の弟の孫にあたる刹那だった。
しかし、そのどちらも、呪受者として生まれては来ていない。
そうなると、未だ独身である士郎の子供ではないかと……隠しの里内では囁やかれていた。
刹那はいずれ生まれてくるであろう自分のイトコの助けになろうと、日々鍛錬を怠っていなかった。
この里のために、一族のために、そうするべきだと。
それが、急に実は呪受者はすでに生まれていて、里の外で育った颯真だというのだ。
しかも、颯真は刹那にとって生まれて初めて会う本物の呪受者。
呪受者に対する憧れがあった刹那は、同い年の颯真が低級の妖怪すら倒せないし、士郎が教えても全く成長する兆しがないのが許せなかった。
「考えただけで腹が立つわ!! なんであんな弱っちいのが呪受者なのよ!! 私の方が強いじゃない!! ユウヤの方がまだマシじゃない!! うざいけど!!」
春日にも怒られたが、刹那は気性が荒い。
すぐカッとなるし、思ったことを口にしてしまう。
でもその度に春日に怒られるため、春日の前ではぐっとこらえている。
だからこそ、こうやってそのストレスを晴らしていた。
「……ふぅ、スッキリした」
しばらく誰もいない山の中で、大声で叫びまくった刹那は、スッキリとした表情で結界の中へ戻る。
それと同時に、士郎に連れられて結界の外へ出て行く颯真とすれ違った。
(外で修行するのかしら?)
横目で二人の様子をちらっと見ながらそう思っていると、すぐに士郎だけが戻ってくる。
(ん……?)
「やあ、刹那、今日の鍛錬は終わったのかい?」
「うん、まぁ……それより叔父さま、あいつはどうしたの?」
「あいつ? 颯真のことかい? ちょっと、一人にしてみた」
「え……結界の外に?」
士郎は八の字の眉を下げっぱなしで、ニコニコと笑っていた。
その表情を見て、刹那は不安になってくる。
「それって、大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。外にいるのは低級ばかりだし、本当に危なくなったら助けに行くから……
「いや、まぁ……そうだけど…………でも……」
(あいつ本当に無能だけど、大丈夫?)
あまり不安がっていない士郎が、逆に怖い。
士郎は優しいし、教え方もうまいけど、ちょっと適当な部分がある。
(……後で見に行った方がいいかも)
そして、刹那の不安は的中する。
低級か中級しかいないはずの結界の外。
中級と出くわすのはかなり珍しいが、颯真が外へ出て初めて遭遇する妖怪は低級ではなかった————
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