第8話さよならを告げる音

「雄也!雄也!」

人混みをかき分け必死にあの子を探す。俺はあの子に謝らなくてはいけない。詫びないといけない。努力しないといけない。あの子の夏を取り返す努力を。


走りながら必死に考えた。

きっとここは俺たちのいた世界じゃない。見たことも無い形のポテト、見たことも無いお札、でもそれがこの世界では普通に使われている。つまりここは並行世界、パラレルワールドの可能性が高い。俺と雄也はそのパラレルワールドに来てしまったのだ。聞いたことがある。もし時間を戻れるとしても今自分たちが存在している時間軸には戻ることはできないと。

「雄也!雄也!」

必死の呼び掛けも花火の爆発音と人々の声にかき消されてしまう。こんなに見たかった花火、楽しみにしていた花火なのに。今だけは忌々しく感じる。


「うっ、うわぁーーん」

子供の鳴き声が爆発音に混じって聞こえてきた。

「雄也?おーい」

俺は必死に呼びかける。人混みをかき分けて声のする方へと進んでいく。

見えた。泣いている雄也とその手を握りしめるじじいの手が。

「その子を離せ!!!」

俺はとっさにそのじじいを押し倒した。これで2度目だ。

「大丈夫か?」

「うっうっ おじさん、ごめんなさい」

「謝らなくていい、ごめんな、俺が悪かったよ」

見ると雄也は俺のボトルビューをしっかりと抱えていた。

「それ、持っててくれたのか?」

「うん、おじさんの大事な物だから」

この少年は大事にしてくれたのだ。あんなに強く腕をを握られてもそのボトルだけは離さなかったのだ。

「ありがとう 俺の思い出を守ってくれて でも、もう ぐっ」

この世界は最後まで言わせてはくれなかった。後ろからとてつもない力で押さえつけられる。警察が来たのだ。雄也も起き上がったじじいに捕まった。またしても腕を掴まれるが雄也は決してボトルを離そうとしない。

『こっちの方がいいね』

こんな状況なのに雄也のその言葉が頭に浮かんだ。

こっちの世界の方がいい、この世界ならコロナウィルスもなくてこのままずっとお祭りもあるかもしれない。

でもダメなんだ。次に進まなくちゃいけない。この子のようにならなくてはいけない。コロナウイルスによって生活が制限されても、自分なりの楽しみを見つけられる雄也のように。


俺も前に進まないと


体の底から溢れてくる力で警察官を振り払い、じじいを押し倒す。これで3度目だ。

「雄也、お前はここにいたいか?」

「ううん 僕、帰りたい。帰ってお母さんに会いたい」

「そうか、わかった、じゃあそのボトルを貸してくれるか?」

「うん」

雄也から受け取ったボトルはもうボロボロだ。でもここまで来れたのはこの子がこれを守ってくれたから。そんな雄也の目を見て

「俺も前に進むよ」

「うあーーーーーーーーー」



最後の大きな花火が割れる。ボトルが割れる。そして思い出もわれ、光に包まれた。







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