第2話 賢女の遺品と聖人の遺産

 感情と行動を切り離して考えることはまだできそうにないが、自分の行動を意識して振り返るのは役に立ったと思う。

 食事の量も、このぐらい食べなければ体に悪いだろう、と思えるラインがあるので、食欲がないからといって食事を残すことはなくなった。

 我ながら現金なもので、お腹がいっぱいに膨れるとそのぶんだけ悲しみが頭の隅へと追いやられていく。


 食事の量が普通に戻る頃には、屋根裏籠りを卒業できた。


「……あ、ユルゲンさん」


 呼びましたか、と数日前からまた館で仕事をするようになったレオナルドの部屋を訪ねる。

 すっかり仕事部屋と化している室内には、レストハム騎士団の副団長であるユルゲンがいた。


「あれ? レオナルドさんが呼んでいる、とサリーサに呼ばれて来たのですけれど、お客様でしたか?」


「いや、ティナにも用事だ。一緒に聞こう」


 レオナルドに手招かれ、室内へと足を踏み入れる。

 以前であればレオナルドの膝の上へと座らされたのだろうが、日本人の転生者であると話して以降は少しレオナルドの態度が変わった。

 十歳になったのだから膝には座りません、と宣言した私を諦め悪く膝へと乗せようとしていたレオナルドは、今ではそうするのが当たり前といった顔で膝の上を勧めなくなっている。


 ……少しだけ寂しいとか、思ってませんよ。


 ユルゲンの隣まで移動して、目が合ったのでにっこりと笑って愛嬌を振りまいておく。

 ユルゲンには何度か会ったことがあるので、少しだけ気安い。

 初めて会ったのはオレリアの家だった、と思いだしたところで、ユルゲンの用事がわかった気がした。

 自分が呼び出された理由も、だ。


「ワイヤック谷の賢女オレリアの死亡と遺体を確認しました」


 ユルゲンの用件は、オレリアの死に関する団長レオナルドへの報告だ。

 普段のレオナルドはグルノール砦で主をしているので、急いで報せる必要のあることは、こうして各騎士団から人がやって来るのだろう。


「オレリアの遺体は、先代の隣へと埋葬が完了しております」


 ……先代の隣、ってどこだろ? 聞いてもいいのかな?


 ワイヤック谷は賢女オレリアが引き籠っているというほかにも、薬術の神セドヴァラの薬草園と謳われるような場所だ。

 オレリアが死んでしまったからといって、一般人が簡単に入っていい場所になるかは怪しい。

 私がふらりとオレリアの墓参りをしたいと言ったところで、許可が出るとも思えなかった。


「お葬式とかは、ないん……ではなくて。お葬式などはなさらないのですか?」


 ユルゲンの報告が一区切りするのを待って、おずおずと聞いてみる。

 埋葬や家の片付けについては聞いたが、葬式等の祭祀を行ったような報告はなかった。


「オレリアに家族は……、いや。場所が場所だけに親族を集めての葬儀はできなかったが、簡易ながら埋葬にあたった黒騎士たちが冥福を祈っておいた。オレリアなら迷惑そうな顔をしそうだが、大々的に人を集めるよりはマシだと許してくれるだろう」


「……そうですね。オレリアさんなら、人が大勢いる方が怒りそうです」


 言葉を意識して直しながら、父が死んだ日を思いだす。

 あの時の私はこの世界での弔い方も知らなかったのだが、レオナルドが簡易な葬儀を行ってくれた。

 強い者が団長になるという黒騎士は、誰でも団長の職務につけるようにと教育が施されている。

 黒騎士であれば、全員が簡易な儀式を行えるのだろう。


「セドヴァラ教会から送られていた弟子についてですが、オレリアからいくつかの処方箋レシピを受け継げていたため、秘術は完全に失われたわけではないと判りました」


 ただ、いくつか受け継げたというだけで、大半のものは失われている。

 その受け継がれたものも、調薬を教える上で手習い的に教えた本当に簡易なものなので、これまで多くの命を救ってきた複雑な調薬は本当に途絶えてしまった。

 どうにか手がかりでも残されてはいないかとセドヴァラ教会の人間がオレリアの私物をひっくり返す勢いで家捜ししたのだが、出てきた字が書かれた物と言えば、先代や弟子が残したメモ書きや、私の送った手紙の束だけだったそうだ。


 ……オレリアさん、グッジョブ。


 私の情報漏えいを知ったその場で証拠となる手紙を燃やしたオレリアに、感謝するしかない。

 あの時オレリアが手紙を燃やしていなければ、今頃はセドヴァラ教会に私が日本語を読めると知られていたことだろう。

 そんなことになっていれば、あの白衣の失礼な集団がまた城主の館へと詰めかけていたに違いない。


 ……ジャスパーはともかく、ほかのセドヴァラ教会の人って苦手。


 テオが黒犬に噛まれた時も、治療費が払えないのではないかと治療を渋っていた。

 薬だってタダではないのだから、治療費を求めるのは解らないでもないが、それにしても緊急事態というものはある。

 保護者に支払い能力があるかどうかを確認している間にも、治療をはじめなければ間に合わなくなる時だってあるはずだ。


 勉強の途中で師を喪うことになった二人の弟子は、それぞれに道を決めたらしい。

 パウラは谷へと残り薬草園の管理を、バルバラはオレリアに教わった一部の処方箋と調合技術をもって、薬師くすしの質が下がっているとセドヴァラ教会の改善に乗り出すそうだ。


「んで、これはお嬢ちゃんへの土産だ」


 土産という名で大きな木箱を差し出されたのだが、当然私には持つことができない。

 中身の確認を兼ねてレオナルドの執務机へと置いてもらい、木箱の蓋を開けてみた。


「これって……」


 木箱の中には少し古ぼけた図案やレース、オレリアの家でボビンレースを教わる時に使っていた枕などが詰め込まれている。

 ひと目見ただけでわかった。

 これはオレリアの遺品だ。


「遺品をわけたのはバルバラって薬師だ。オレリアの親戚に渡すよりも、お嬢ちゃんに渡した方がいいだろう、ってな」


 ユルゲンの説明を聞きながら図案を一枚一枚確認し、織り方を読み解く。

 図案の読み方は最初に教えてもらったので、なんとか読むことができた。

 少し自信が持てない箇所もあるが、そこはカリーサに読んでもらえばいいだろう。


「……これは、新しいですね」


 古ぼけた紙に描かれた複雑な図案が続いたあと、急に紙質が新しいものに変わる。

 新しい紙に書かれた図案は簡素な模様ばかりで、オレリアにしてみれば図案に起こす必要などなかったものだろう。

 最近になって描かれたものだと、それだけで判った。


 ……うん。これは、私のものだ。


 もしかしなくとも、オレリアが私のために作ってくれた図案だ。

 この図案やオレリアの作品を研究すれば、オレリアのボビンレースは引き継いでいくことができるだろう。


 オレリアの遺品を届けてくれたユルゲンに礼を言い、バルトに木箱を部屋へと運んでもらうことにする。

 サリーサの手伝いを断り、一人で改めて図案を整理していると、ようやく涙が出てきた。







 引き続き謹慎中の私にセドヴァラ教会の様子はわからないが、レオナルドの元へは毎日のように情報が集まってくる。

 さすがに見たとおりの子どもではないと理解されているので、レオナルドとアルフから聞きだせる情報は少なくなったが、ほかの黒騎士から情報を聞き出せばいい。

 黒騎士から情報を聞き出すのは簡単だ。

 レオナルドの元へと来た帰りに、話し相手になってください、とサリーサを伴ってお茶へと誘うだけでいい。

 美人で胸の大きなサリーサと、見た目だけは可愛らしい十歳の女児に接待されて喜ばない男は少ない。

 ホイホイとお茶の誘いへと乗ってきた黒騎士の口からは、セドヴァラ教会の現状を聞くことができた。


 ……やっぱり大変なことになってるみたいだね。


 オレリアの訃報で、セドヴァラ教会に激震が走ったといって間違いはない。

 早急なる研究資料の写本完了とその解読、秘術の復活が望まれているのだとか。

 ジャスパーのところへも、検閲をされた手紙が多く届くようになった。

 まだ写本は終わらないのか、との催促の手紙が。


 ……写本なんて、そんなに簡単に終わるものじゃないよ。


 少しだけ手伝ったことがあるので、その作業の大変さが解る。

 読むことのできない文字の写本など、恐ろしいほどの気力と集中力がいる作業だ。

 そして枚数も、本の一冊や二冊分だけではなかった。

 研究のメモや日記的走り書きなど、とにかく数が多い。

 もう一年以上も客間に閉じ込められているジャスパーは、別に遊んでいるわけでもなんでもないのだ。


 サリーサの作ってくれた焼き菓子を美味しくいただきながら、いくつかを包んでもらう。

 いろいろと聞かせてくれた黒騎士にお礼として包みを渡したのだが、これは失敗だった。

 サリーサ作の焼き菓子というプレミア感に、日ごろ出会いの少ない職場にいる黒騎士の口が軽くならないはずはなかったのだ。


「さて、ティナ。黒騎士に賄賂なんて渡して、なにを調べていたのかな?」


「なんのことでしょう?」


 賄賂なんて人聞きの悪い、とヘルミーネ仕込みの淑女たる猫を被ってアルフを迎え撃つのだが、女に騙されやすいレオナルドならともかくとして、もとから貴族として生きてきたアルフには私の付け焼刃でしかない淑女の振る舞いはなんの効果もなかった。

 真顔のアルフに黒騎士へ賄賂を贈って、いったいなにを聞き出そうとしていたのか、と問い正されては、正直に答えずにはいられない。

 整った顔立ちのアルフは、怒らせると本当に恐ろしい顔をする。

 あの顔で怒られるぐらいならば、まだ真顔でいてくれる間に正直に話してしまった方がいい。


「オレリアさんが亡くなったあとの、セドヴァラ教会の様子についてを聞いていました」


 アルフとのにらめっこには早々に白旗をあげ、レオナルドもアルフも私にはなにも教えてくれないので、自分でできる範囲で調べることにしたのだ、と開き直ってみる。

 私の場合は下手に隠しごとをするよりも、正直に話して相談に乗ってもらった方がいい。


 セドヴァラ教会内部でも大混乱が続いていて、その皺寄せでジャスパーへの手紙が増えたという、黒騎士から聞いたままを話す。

 アルフのところへも似たような報せが来ていたのか、アルフの判断で私に聞かせてもいい物とそうでない物を隠されていることは感じるのだが、いくつかの情報に訂正が入れられた。


 ……完全な子ども扱いじゃなくなる、って少し窮屈だね。


 以前から私に対して隠されている情報はあったが、それでも今ほどではなかったと思う。

 子どもに聞かれてもどうせ理解できないだろうと思える内容については構えずにサラッと混ざっていたりしたのだが、今は私に話しながらもどこまで聞かせるかとアルフが考えているのが判った。


「ジャスパーが写本している研究資料には、たしかに調薬の手順やコツなども書かれていましたけど、その……」


 正直に言っていいものだろうか、と少し考える。

 セドヴァラ教会が希望を見出している聖人ユウタ・ヒラガの研究資料には、雑記のように余分な文字列も多い。

 研究の失敗談ぐらいであれば役に立つかもしれないが、夕食の献立やその味の感想、ご近所付き合いの愚痴まで綴られているのだ。

 聖人ユウタ・ヒラガのイメージダウンも甚だしい。


 そうこっそり耳打ちしたところ、アルフは苦笑いを浮かべた。


「……そこは申し訳ないが、ティナに期待するしかないな」


 いずれ私が読むことになるだろうから、読みにくい雑多な内容であっても頑張れ、とアルフは言う。

 王都への出頭命令が出ているということは、強制はできないが日本語を読めと要請されるだろう、と。


「日本語は読めますし、処方箋は伝えた方がいいと思っていますけれど、わたしに調薬のための基本的な技術などありませんよ?」


 読むだけなら簡単だが、それが本当に正しい手順なのか、と実際に調薬してみることを求められるだろう。

 いつかは誰かの口に入るかもしれない薬だ。

 賢女が魔女と呼ばれた時代のように、薬のつもりで毒を作るわけにはいかない。

 日本語は読んだから、あとはよろしく、と無責任を貫くことはできないだろう。


「……それだったら、セドヴァラ教会からティナが信用できると思える薬師を借りてきて、実際の作業は薬師にさせればいい」


「薬師に知り合いなど、三人ほどしか思い浮かびませんが……」


 指折り数えてみるが、やはり三人だ。

 オレリアとジャスパー、それからバルバラだ。

 オレリアは死んでしまったし、その弟子であったパウラは本当にまだ薬師の卵なので、薬師として数にかぞえてはいけない気がする。


「……あれ? ジャスパーって薬師でしたか?」


 本人からは日本語の研究をしている学者だと聞いたことがあるが、私が熱を出した時にレオナルドが薬師として連れて来たのもジャスパーだった。

 ジャン=ジャックと街へ買い物に行った時も、薬剤の取り扱いはジャスパーが行なっている。

 そのため、なんとなく薬師だと思い込んでいたが、本人の自己紹介では学者だった。


 ……やっぱり薬師? それとも学者?


「ジャスパーはグルノールのセドヴァラ教会ではニホン語の研究をしているが、今でも立派な薬師だよ」


 今でこそ研究職がメインになってはいるが、薬師としての学も立派に修め、グルノールの街へ来る前に何年も薬師として働いてきているらしい。

 薬師としての経験だけならば、おそらくはバルバラよりも積んでいる、と。


「セドヴァラ教会の薬師は、大きく分けると二種類に分類できる」


 すでにある技術を身に付けて民のために働く街医者タイプと、知識と技術を身に付けたあとは未来の誰かを助けるために新薬の研究に没頭する学者タイプがいるらしい。

 日本語を研究しているというジャスパーは、未来ではなく過去の秘術を復活させようと研究を続ける学者タイプだ。

 どちらのタイプも、薬師として問題なく働くことができる。


「……写本が終わっているものだけでもセドヴァラ教会へ渡して、研究を進めてもらうことはできないのですか?」


「写し終わった分だけ先にセドヴァラ教会へ、という案は悪くはないけど、後々のことを考えたらやめておいた方がいい。上からの許可も下りないと思う」


 時間は有限なのだから、流れ作業で研究を行なえば、秘術の復活も少しは早くなるかと思ったのだが、単純な合理主義では行なえないらしい。

 なぜかと聞いてみたところ、妙な言いがかりは付けられたくない、とアルフは肩を竦めた。


「聖人ユウタ・ヒラガの処方箋が失われた一番の要因って、聞いたことはあるかな?」


「一番の要因、ですか?」


「聖人ユウタ・ヒラガがニホン語とドイツ語しか書けなかった、ということもあるけど、それだったら誰かがこの国の文字を使って処方箋を残せばよかったんだ。その誰かにはニホン語が読めなくても、ニホン語の読み書きができる聖人ユウタ・ヒラガが存命中だったのだから」


 言われてみれば、たしかにその通りだ。

 日本語の読める転生者を必要としているとは聞いたが、まずその日本語で書き残した聖人ユウタ・ヒラガが日本語の読み書きを得意としている。

 存命中であれば、誰かがこの世界の言葉で書き残すことだってできたはずだ。


「聖人ユウタ・ヒラガは、さまざまな方法で自身の生み出した秘術を伝えようとした。賢者や賢女への口伝、セドヴァラ教会への処方箋の公開、研究資料の開示……おそらくは思いつく限りを試したのだと思う」


 そのさまざまな方法の中には、当然この世界の言葉で書かれた処方箋もあった。

 むしろ、複数の言語で残そうと試みていることから、聖人ユウタ・ヒラガとしては賢者や賢女による技術の口伝よりも、書での伝達に主眼を置いていたようにも思える。


「でも、今はありませんよね? この国の言葉で書かれた聖人ユウタ・ヒラガの処方箋」


 そんな物が残っていれば、オレリアの死によって秘術の断絶など起こらないし、もう少し多くの賢者や賢女と呼ばれる存在がいたはずだ。

 日本人の転生者が求められることもなかったはずである。


「聖人ユウタ・ヒラガが薬術として調薬技術を確立するまでは、セドヴァラ教会はただ病の快癒を神に祈るための場所だった」


 神に祈れば病が治る。

 それが常識としてまかり通っていた時代に、調薬ひとのちからで病は克服できる、と言い出したものだから、面倒ごとが起きた。

 神を信じる一派と、神の御業を人の手で再現できる調薬技術を受け入れた一派とで、セドヴァラ教会内で派閥争いが起こったのだ。

 確かな効果のある聖人ユウタ・ヒラガの薬に、調薬技術を受け入れた一派が優勢を誇っていたが、最後まで神を冒涜する行為だと調薬技術を否定していた一派は書庫に火を放って多くの処方箋が失われることとなった。

 そんな争いを繰り返しているうちに、ついにはこの世界の言葉で書かれた最後の一冊までもが燃やされてしまい、聖人ユウタ・ヒラガの秘術は賢者と賢女によって口伝で伝えられるものだけが残ったのだとか。


「……馬鹿ですか? 馬鹿ですよね? 馬鹿しかいないんですか、当時のセドヴァラ教会」


 呆れすぎて、意識して被っていた猫を放り投げてしまう。

 つい素で言葉が漏れてしまったが、この話を聞けば誰だって同じ感想を持つはずだ。


「信仰とか、この場合は棚にでも置いておけばいいのに。なんで折角の処方箋を燃やすだなんて馬鹿なことを……っ!」


「それに対しては、私もまったくの同意見だ」


 信仰はたしかに大事だが、処方箋の価値とは分けて考えてほしかった。

 それを短慮にも燃やしてしまうなどと。


「日本語の研究資料が王家に残っているのは、聖人ユウタ・ヒラガが研究資料を王家へと売ったから、と記録に残っている」


 その金を資本にしてより多くの薬を生み出し、貧しい家庭でも薬が得られるようにとセドヴァラ教会と交渉をして組織作りを行なった。

 セドヴァラ教会が今のように街の病院といった役割を果たすようになったのは、本当に聖人ユウタ・ヒラガの功績だ。

 それまではただ祈る場所でしかなかったのだから、ユウタ・ヒラガは本当に『聖人』と呼ばれるに相応しい行いをしたのだと思う。


「写本が完成するまで渡せないっていうのは、また燃やされたりしたら、いつまでも写本作業が終わらないからですか?」


「最終的に焦れたセドヴァラ教会に、研究資料そのものを寄越せ、とは言われたくないからね」


 完成した写本をセドヴァラ教会へと渡したあとでなら、燃やされても紛失されても、それはセドヴァラ教会の責任だが、貴重な処方箋を燃やすような過激派がどこかに潜んでいるかもしれないセドヴァラ教会に、真実これ一つしかない原本を奪われるわけにはいかない。

 白銀の騎士に見張られているとはいえ、もしかしたらセドヴァラ教会に所属するジャスパーに写本作業をさせることすら王族の側には抵抗があるのかもしれなかった。


「いっそ、メンヒシュミ教会にでも持ち込んで、印刷したらどうですか?」


「ティナが訳してくれたあとでなら、それもいいかもな」


 ひと財産どころではなく稼げるぞ、言ったアルフの目は少しだけ本気だった。

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