第12話 過去とEと神話

 さて、シルフィは・・・


「大丈夫か?」


 後ろに向き直り、シルフィに声をかける。


「うん。あと、守ってくれてありがとう。」


 お、おう。ちょこんと体育座りをして、上目づかいで言ってくるのは、なかなかズキュンとくるぞ。


「お、おぅ。どういたしまして。ところで、シルフィは何でここに繋がれていたんだ?別に、嫌ならば話さなくてもいいけど。」


 イビルスの話は断片的すぎて、全容は全く分からん。

 だいたい、エルフについてもほとんど知らない。だけど、仲間を封印する風習なんかないだろう。


「分かった。」


 シルフィは深呼吸をすると、訥々とつとつとここまでの経緯と、凄惨せいさんな過去を語りだした。


「私はエルフの里で、お姉ちゃんと双子で生まれたの。けど・・・双子は呪われた忌み子とされているため、両親に捨てられてしまった。」

「っつ。」


 か。全く一緒じゃないか。


「長老に捕まって、そのまま殺されるかと思っていたんだけど、禁忌に触れるため同族は殺せないらしいの。だから封印することになってここに繋がれた。」


 つまりは、間接的にも殺せないわけか。だから、必要最低限の食事は必要で……あそこに謎の食器があったのか!     

 だったら、何で魔族に依頼したんだ?


「忌み子には触れたくないから、魔族に依頼したんだと思う。」

「僕の思考を読んだのか?」


 驚いたぞ、普通に。


「なんとなく、そんな事考えているんだろうな~って感じたの。」


 考えたではなく、感じたね。感受性が豊かなのか。


「話を戻すけど、私には帰るところが無いの。だから、だから・・・」


 ギュッと手を握りしめる。


「イロアス、私と結婚して!」


 はい?

 ちょっと、待て、しこうていし。


「あのままここに居たら、私は私じゃなくなっていた。だから、イロアスは私の命の恩人なの。」


 ふぅーー。一息ついて……素数は1・2・3・5・7・9・…落ち着いて……口を開く。


まぁ、1は素数ではないのだが。


「まぁ、分かった。けど、僕はまだ12歳で成人していないから、結婚は出来ない。」

 

 YesともNoともつかない曖昧な返事を返す。あいにくと、ボッチの俺には乙女心が全く分からん。というわけで、一時保留にするのが賢明だと思うんだが?

 俺は静かに右手を差し伸べる。


「けど、帰るところならある。俺と一緒に来るか?」


 そう言うと、シルフィは顔をほころばせた。


「うん。」


 ◇

「さて、帰るか。」


 自由になったシルフィの手を取り、忌々しい部屋から抜ける。ついでに魔族が来ないように〈ウォール〉で埋めといた。


 さて、地下100層のどこかに転移陣があるはずだ。

 疲れた、今日は長かった。



 ◇◇

「むぅ~。3年も待つなんて。」

「どうしました、ロザリア様。」

「何でもないわ。」


 どうしよう、他の女に取られていたら。

 しかも、とても可愛い子だったりしたらもうショック。


「けど、勝ち取ってみるわ。」


 バンッと机を叩き、立ち上がる。


「やはり、どこか悪いのでは?」

「失礼ね。人が決意を固くしたと言うのに。」


 ◇◇




 ◇ 翌日


「おはよう、シルフィ。」


 エルフの少女シルフィは、じいちゃんとばあちゃんに快く受け入れられ、この家に住むことになった。

 まだまだ、慣れていないと思うが、仲良くしていけたら良いと思う。

 俺のコミュ障がついでに治ってくれればいいんだが。


「おはようございます。イロアス。」


 昨日よりもだいぶ血色がよくなっているから、体調はすぐに回復しそうだ。


「元気そうでなによりだな。」

「はい!ステラおばあさんから薬をもらいましたし、エルフは森の木々から力をもらえますから。」


 なるほど。ここら一帯はセルバと呼ばれる大森林の中心部近くだから、エルフに最適な環境だな。セルバ付近ににエルフの領域となんか王国があったしな。


「さて、僕はまだダンジョンに行ってくるね。」


 まだレベルが足りないし、ステータスポイントやエクストラポイントも欲しい。なにより、安全マージンを十分に取れるレベルになりたい。


「行ってらっしゃい、気をつけてね。」


 見送ってくれたシルフィに手を振り返して、いつも通りダンジョンに向かう。どうやら、最近はここらの魔物じゃレベリングにならなくなってしまったようで、ダンジョンに通い詰めていた。

 ボスが居なくなっても、ダンジョンはあるだろう。無かったら本当に困る。レベリング場所無くなるし、スキルや魔法を自由にぶっ放せる相手もいなくなる。


 そう危惧していたが………それは杞憂に終わったようだ。


 いつも通りの場所にまだ、ダンジョンは存在していた。

 しかし、この時はまだ何かを見落としていることに ― ダンジョンのモンスターを〈鑑定〉すれば気付けたかもしれないが ―イロアスは気付かなかった。


「レベリングだから、95層以上行きたいなぁ~。よし、97層から99層まで行こう。」


 転移陣を踏むと、ガス灯の消えた地下100層にたどり着いた。これ、〈暗視〉ないと何も見えないな。

 イビルスが出てきたあの扉は、未だ俺の〈ウォール〉によって埋められていた。多分、ディザスターとやらも来ていないだろう。正直、ディザスターには勝てるかわからん。魔王幹部だし。


 色々と考えているうちに97層にたどり着いたのだが……


「さて、レベリングだぁ…。……。zzZ 


 イロアスの意識は深い眠りによって奪われた。

 高レベルの〈状態異常耐性〉をもつイロアスにこんなことができるのは、ヨギーアだけだ。


「спатьспать」


 すでに、霊魔やポイズンスライムがイロアスの周りを囲んでいた。


 …

 …

 …





「・・・っ・・・う~ん。」


 よくねたぁ・・・・っじゃねえ!!


『【スキル】〈毒無効〉がLvMAXになりました。』

『【スキル】〈スリーピングヒール〉を獲得しました。』

『【スキル】〈スリーピングヒール〉がLv6になりました。』

『【スキル】〈毒無効〉が【エクストラスキル】〈成長限界突破〉の効果によりLvEになりました。』

『【スキル】〈恐怖耐性〉Lv5になったため、〈状態異常耐性〉がLv92になりました。』

『【スキル】〈認識阻害耐性〉がLvMAXになったため、〈状態異常耐性〉がLv95になりました。』


「おう、なんかめっちゃ来てる。」


 視界を覆うほどのスキルLvアップ表示に驚きつつ、現状を確認しようと身体を起こす。


「っつ。」


 上体を起こすと、そこにはおびただしい量の霊魔やポイズンスライム達がいた。


「〈テラボルテージ〉!〈クロノス・ギア〉×5!」


 スタンをかけると、自分中心に発動する、風属性の斬撃型範囲攻撃魔法で辺りを殲滅せんめつする。消費魔力なんかよりも、こいつらを掃討するのを優先した。


「〈シェイド〉〈フレアドライブ〉。」


『レベル101になりました。魔力量が505000に上昇し、ステータスポイントが10ポイント付与されました。』


「〈クロノス・ギア〉×15!!」


 最後に霊魔が崩れ落ちるのを見ると、俺は肩の力を抜いた。


「ふぅ、終わったぁ。」


 満身創痍なのはもちろん、服はボロボロで、上半身はほぼ裸。スライムのせいでベトベトだし、頭には大きなたんこぶが出来てるし。改めて自分の身体を見下ろすと、ダメージが深かった。


「〈超回復〉。」


 傷を完治させても、スライムの不快感は残ってるし、ヨギーアのせいで頭が痛い。【スキル】とかは家に帰ってから見てみるか。

 

 「ぐぅ」


 お腹が鳴ったってことは、もう昼が近いのか?

 太陽の光が射し込まない深い地の底では、時間の経過が分からない。いつもは体感でだいたい分かるんだが、今日は寝ていたのでさっぱりだ。

 

 さて、今日の昼食は何でしょうかね。


 ◇

「イロアス!帰りが遅いじゃないか。心配したんだぞ。」


 家に入ると、じいちゃんが大きな声を上げて言ってきた。

 そんなに長い時間寝てたか?


「もうみんな昼食食べちゃったよ。まったくどこをほっつき回っとったんか。」


 はい、寝てました。


 いや~、やっぱヨギーアが一番怖いな。朝8時くらいからダンジョン潜って、今は2時くらいだから約5時間半くらい寝ていたことになる。

 さすがに寝すぎだろ。


「今日はシルフィちゃんがシチュー作ってくれたから、早く温めて食べなさい。」

「おう、さっきからいい匂いがすると思ったら、シチュー作ってくれたのか。」


 さっそく台所に行って、鍋に入ったシチューを温める。ちなみに、この世界にガスコンロなんてないし、IHヒーターなんかも言うまでもなく無い。なので、火力は火魔法の魔道具を使っている。

 しかし、当の本人であるシルフィの姿がない。どこにいるんだ?


「ところで、シルフィはいずこに?」

「裏で魔法の練習じゃ。」


 ばあちゃんは勝手口を指さして言った。

 俺は家の前のドアから入って来たから分からなかったけど、かすかに音がするな。


「シルフィちゃんはずいぶんと風の魔法が上手でね、魔力伝達が洗練されていたよ。あれは天性の才能だね。」


 ばあちゃんがそこまで言うということは、かなり常人離れしているのだろう。そもそも、エルフと人間では魔法の才能に差があるのか?


「もしかして、俺よりも上手かったり?」

「威力であんたに敵う者は魔王くらいしか思い浮かばないんじゃが。」


 いや、魔王幹部でも拮抗する気がするぞ。さすがにそこまでじゃないだろ。


「でも、効率の良さなら、シルフィちゃんが一枚上手だね。」


 効率ね…普通の人はそこも重視するのだろうけど、俺は魔力量50万だからな。別に残魔力を気にして戦うって事が無い気がする。


「お、温まった。」


 くつくつの湯気を立ててきたので魔力切り、皿につぐ。山菜のいい匂いが湯気とともに鼻孔をくすぐる。


「いただきます。」


 木のスプーンですくうと、角切りにされた野菜とたくさんの山菜が入った汁が食欲をそそる。


「美味い。」


 語彙力ないし、食リポなんてしたことないから「美味い」しか言えないけど、美味い、おいしい。


「これ、リフレ草じゃなくね?」

「エルフは森とともに生きているからね。おいしい山菜も熟知しているのよ。」


 よし、後で色々と聞いてみよう。

 王都に行く頃には、こっちの世界でも自炊ができるようになっておきたいし、美味しさは世界を救うからな。



「ごちそうさま。」


 食器を片付けると、さっそくステータスを開き、【スキル】を確認する。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【スキル】

 〈スリーピングヒール〉Lv6…消費魔力0

 睡眠時の魔力回復や疲れ・怪我などの身体的回復の速度が速くなる。睡眠の質も向上。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 おぅ、なんか使えるようで使えなさそう。なんかぱっとしない【スキル】だな。

 睡眠の質とか、超どうでもいい。まぁ、ショートスリーパーには憧れてたけど、【スキル】でそこまで要らない。



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【スキル】

 〈毒無効〉LvE…消費魔力0

 すべての毒を無効化し、まれに毒を浴びるとステータス補助効果付与。

 〔E〕限界”を超/越し、@管*理者に*対等すasis#;eる能;力n‘‘‘=:*

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 …………ん?バグってる。特に2行目。

 あからさまに文字化けというか、文として成立していない気がする。なんかアッドマークあるし。

 あ、でも、日本語のところだけ読むと、「限界を超越し管理者に対等する能力」となる。普通に意味分かるわ。成立は…一応しているな。

 管理者は多分、俺をこの世界へ連れてきたやつだろう。そいつに対等するってことは、例えるならばゲームの中でGMゲームマスターとおなじ力をもつことになる。つまり、この世のシステムを超えた最強になってしまった分けだ。

 

 「よし。これで毒による死亡ルートは完全回避した。」


 毒によってバフが付くとか、もはや毒じゃない。

 しかし、Eとは何だろうな。エクストラとか、バグっているからエラーとかか?

 まぁ、考えても意味なさそうだ。この世界の理とか、システム、管理者などは人智を超えたものだから、一応人間である俺は想像もつかない。


「どうした?さっきから固まって。」


 ずっと一点ばかり見つめていたイロアスは、カールの目には異様に映ったらしく、イロアスを心配そうに見つめていた。



「あぁ、ちょっと考え事を…。」


 転生者って事は話したけど、まだ正体も朧げな管理者のことは話さなくてもいいか。

 変に巻き込んでも、俺が責任取れないし。


「ところで、こっちの世界の宗教とか神話ってどんなのがあるの?」


 日本みたいに多神教とか、あまり宗教と関わりがないと良いんだがそれはないだろう。

 あと、神と管理者の関係が気になる。神がいるとしたら、神と管理者どっちの方が権力が上なのだろうか?多分、後者だろうが。


「帝都では主にセア教が信仰されておる。セア教は女神セアを中心とする12の御柱みはしらの神を信じることで、この国を守ってくれていると伝えられておる。教会は国の中枢を占める大きな存在じゃな。」


 12神ってギリシャ神話っぽいな。あれは確かオリュンポス12神って言ったはずだ。

 そして、教会が強大勢力っていうテンプレね。たぶん、法王とか教皇的存在の奴はこの国のトップ2あたりに位置してるんじゃないだろうか?


「まあ、正直言って神なんてどうでも良いんじゃが、教会に目をつけられたらだいぶ面倒じゃ。」

「あとは、帝国以外では……憐華れんかの王国・ブロッサムだと、フローリアという宗教が有名じゃな。」


 ん?ブロッサム?どっかで聞いたような………英語だと花だったよな。

 まぁ、いいか。


「で、そっちは教会とかあるのか?」


 帝国と王国では、大きな戦力差がありそうだが、教会の権威的なものにも差があるのではないだろうか?

 いや、でも、大きな帝国の宗教が浸透していないってことは、フローリアがセア教と同じくらい強いってこともありうる。

 なんて長く思考を廻らせていたイロアスに返ってきた答えは、想像の斜め上を行っていた。


「いや、フローリアに教会は存在せんよ。」


 はへー、そうか。無いんか。


「って、無いの!?」


 この世界の宗教イコール協会からの布教かと思ってたけど、どうやら違うらしい。

 教皇とかもいないのだろうか?


「フローリアの方の神はどんなやつなの?」

「神にむかってどんなやつとは、大層肝がすわっとるのぅ。」


 じいちゃんは俺を発言に目を丸くしてそう言った。

 あいにくと、無神論者の俺はこっちでは異端者に近いらしい。文化が変わると、人間というか大衆の価値観や認識ってモノがずいぶんと変わるみたいだ。


「あぁ、すみません。神様。」


 しかし、いくら無神論者だって言い腐っても、郷に入ったなら郷に従った方がいいだろうという結論に達し、イロアスは謝罪の意を示した。



「フローリアの神は、神話に描かれる勇者じゃな。」

「神話って、あのおとぎ話になっている伝説の勇者?」


 たしか名は……


「ルルーディ。イロアス・ルルーディじゃな。」


 そうだった。何故か俺、伝説の勇者と名前同じなんよ。この名前のせいで学院で上級生に目をつけられたりしたら終わりだわ。

 ここでも、管理者が邪魔してくるか。


「まぁ、勇者と同じ名前の奴らはごろごろおるし、風貌はちっとは目立つが大丈夫じゃろ。」


 じいちゃんはまるで俺の心の中を読んだかのように、不安を取り除いてくれた。

 優しいのはだいぶ伝わってくるんだが、じいちゃんもばあちゃんも、そしてシルフィも何故読心術を取得しているんだ?そこが1番の謎なのだが。

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