第11話 地下100層ボス戦②

「貧相なつくりだな。」


 見た感じ、ただの木のドアだ。材木は分からないが、なかなか強度の高い木材なのだろう。

 ずいぶんと、地下深い岩石を支えているのだから。


「しかし、新しいそうだな。床と違って土ぼこりを全然被っていない。」


 立て付けられたのはつい最近だろう。

 じゃあ、誰が何のために?

 しかも、ボスを無視してこんな所にドアを付けたことになる。犯人のやったことは、とても人間業とは思えない。


「よし、入るか。」


 魔力を回復し、少し傷ついたままのデスリーパーの外套がいとうを纏まとい、右手にビームセイバー、左手にレールガンを持つ。

 一応、トラップがあるかもしれないので直進せずに、脇から少し開くが何も見えない。〈暗視〉を使っているというのに。

 顔1つ分くらい開いてから、両目で覗く。暗い所を見やすいように、夜目にしてから。


 最初に目に入ったのは、手足を鎖で繋がれた1人の少女だった。べたりと力なく座っていて、綺麗だったであろう金色の髪も痛み、鎖に繋がれた手もだらんと垂れ下がっていた。1目でその少女が憔悴しょうすいしきっているのが分かった。このままにしていると、あと数日で力尽きてしまうだろう。しかし、彼女のそばにはなぜか食器があった。


「助けなければ!」


 そう思ったが、トラップかもしれないと思い留まる。視野をさらに広げて全体見回す。少女との距離は約50mほど、つまりはこの部屋は直径が50mということだ。

 部屋全体はほんのりと紫色に光っていた。輝緑石とは違った鉱物によって光っているのだろうか?

 これだけ開いても何も起こらないので、ドアを開き中に入る。


 カツン。カッ、カン。


 あ、やべ。

 入り口付近に落ちていた石を蹴っ飛ばす。その音に気づいたのか、鎖に繋がれた少女がこっちを見る。どうやら、かろうじて意識があったらしい。


「・・・て。」


 掠れた声で、何かを懇願こんがんしている。

 今気付いたが、その少女の耳はとんがっていて、人間のものとは違っていた。


「もしかして、エルフか?」


 俺が尋ねると、その少女は首を縦に振り、肯定を示す。

 初めて目が合ったが、すぐに目をそらされてしまった。

 てか、いたのかエルフ。そう言えばこの前もそんなこと考えていたな。


「助けてっ。」


 さっきの言葉は助けを求めていたのか。しかし、絶対何かトラップがこの部屋にあるな。まっすぐに突っ切るのは危なそうだ。

 少女はまたうなだれてしまい、


 さっきドアの前でやったみたいに、壁にそって端を歩いて進む。

 けど、いくら気を配ったところで、床とか抜けたらひとたまりもないな。

 一応、アレもやっておくか。


「〈シェイド〉。」


 右目に紫紺しこんの刻印が現れ、闇が顕現けんげんする。自身の周りに纏わせるようにして、簡易的なバリアを張る。〈ウォール〉と違ってずっと自分の周りに貼っておけるのがグッドポイントだ。

 ん?なんかここら辺紫色の光強くない?


 あれ、こんなことやっている間にもう少女の目の前なんだが。トラップは杞憂に終わったか?まぁ、フラグになりそうなので口には出さない。


「大丈夫か?もうすぐ助ける。」


 今すぐと言えないのが残念だが、少女の周りに張ったトラップが無いか心配なので、ゆっくりと行く。

 〈シェイド〉を使って、先の地面を叩いたりしてみるが、反応なし。

 石橋を叩いて叩きまくって、割ってしまうくらい探ってから・・・


「無い。」


 という結論が出た。いや、明らかにありそうなんだけど無いんだよな。

 けど、新たな問題が発生した。

 この鎖ってどうやって斬るの?ひとまず、剣で斬ってみるか。

 じいちゃんのファルシオンを取りだし、鎖に叩きつける。


「ひっ。」


 キンッと澄んだ音が響き、エルフの少女は怯える。しかし、鎖には傷1つつかない。

 だったら・・・

 ビームセイバーに持ち替えて、融解しようと試みるが、火力が足りず溶かすまでに至らない。もっと出力を上げたいが、この魔導回路だと壊れてしまう。


 まぁ、そんなこともあろうかと作っていたんですけどね。高出力対応のビームセイバー用魔導回路を。


 持ち手の上下にある蓋を外して、本体を半分に開く。中にセットされている、中心部に穴が開いた長方形の魔導回路を取り出す。それを新しいタイプのやつと取り換え、再度組み立てる。


「出来た。」


 顔を上げると、興味津々にビームセイバーを見ているエルフの少女と目が合った。が、すぐに目をそらされる。人見知りなのか、嫌われているのか?まぁ、こんな所に鎖で繋がれているってことは、過去に色々とあったのだろう。

 特に深く聞くことはしないでおこう。彼女の傷をえぐるほど残虐な奴ではない。


「これを被っておいて。」


 俺が身につけていた、デスリーパーの外套をエルフの少女に渡す。万が一、ビームセイバーが当たっても怪我をしないようにするためだ。


「うん。」


 コクリと頷き、頭から外套を被る。

 それじゃあ、試してみるか、高出力ビームセイバーを。

 組み立て終わった本体を持ち、立ち上がる。


 魔力を流すと、淡く蒼白いビームが刃となる。


「おお、かっけえ。」


 いつものオレンジ色のビーム刃よりも、このビーム刃の方が断然強そうだし、カッコよかった。ただ、消費魔力が相当高くなっている。まぁ、常人じゃ使えんな。

 よし、こいつをビームセイバー・プラズマモードと名付けよう。

 刃を鎖に当てると、パキンとガラスを割るような感触がして、この鎖に付与されていた魔法を破壊した。そうなったらただの金属なので、簡単に斬る、いや溶かすことができた。

 両腕と両足首にはめられた金属の輪っかみたいなものは取れていないが、これで自由に四肢を動かす事ができる。


「ありがとう。私はエルフのシルフィ。あなたは?」

「どういたしまして。僕はイロアス、ただの人間だ。」


 生きる希望が持てたのか、さっきよりも活気付いている。


「ただの人間がダンジョンの最下層まで来れる訳ないと思う。イロアスって何者?」


 言われてみれば、確かにそうだな。普通の人間ではないのか、俺。


「まぁ、それはここを出てからだ。」


 自由になったシルフィの手を引き、もと来た道を引き返そうとする。


「ちっ。」


 しかし、3歩も歩かないうちに、濃い魔力が視認でき、床に大きな魔方陣が紫色に光って出現する。しかし、この魔方陣はボス部屋のとは別物で、形状も全然違う。

 色だって、闇の刻印のよりもずっと明るい色だった。


「下がってて。」


 隣にいたシルフィの前に手を出して、自分の後ろに下がらせる。

 俺は反射的に〈シェイド〉を纏っていた。


 何が来るのかと辺りを見回すが、でかい岩が転がって来たり、四方八方から矢が飛来してくることは無かった。


「あれ?」


 何も来ないぞ。けど、あの魔方陣は光ったままだ。

 なんて考えていると・・・

 不意に魔方陣の中心付近の地面が隆起する。

 液状化か?とか思っていると、魔方陣から『何か』が出てくる。

 その『何か』は、人間っぽい風貌だが、頭部に角が2本生えており、紫色の皮膚をもつそいつは姿を現した。瞳の色はイロアスと同じ紅色だったが、イロアスのよりもどす黒く、禍々まがまがしくみえた。


「ま、魔族。」


 怯えた口調でシルフィが呟く。まだ握っていた手から、震えが伝わって来た。

 多分、ここにシルフィを監禁したのは魔族の仕業だろう。


 魔族か。伝承でしか知らないが、人間よりも高い魔力を保持していて、好戦的な連中らしい。けど、魔族の長である魔王が狡猾で慎重な性格なため、大々的な戦争になったことは無いようだ。


(〈鑑定〉。)


 こっそりとあいつの事を鑑定する。


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 イビルス Lv78

 ・第三階梯かいてい魔族。

 ・第五階梯魔族、魔王幹部第一席、ディザスターの部下の1員。

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 第三階梯?魔族には身分格差があるのか?しかし、ディザスターとかいうやつが魔王幹部だし、魔族の中でも強い部類に入ると思うため、第三階梯と言うのは強い奴と弱い奴の中間くらいか?けど、中間でレベル78なのか。第五階梯のディザスターはレベル何なんだ?


「ボスが言っていたのは本当だったな。ここに術式を張っておくと、強い奴と戦えると。」


 唐突に魔族、いやイビルスが口を開く。

 まぁ、ボスがディザスターって奴だということをもう知っているんだけども。


「俺様はイビルス。お前の名は?」


 いきなり戦闘が始まるわけではなく、名前を聞かれる。

 魔族の世界でも、初めましては自己紹介らしい。しかも、自分から名乗るあたりがなかなか好印象だ。

 人間の書物による伝承は少し間違っているな。


「僕はイロアス。少し変わった人間だ。」


 そう言うと、後ろでシルフィがくすりと笑いをこぼす。

 さっき、ただの人間じゃないって言われたから変えてみたんだが。


「少しだぁ?俺様にはだいぶ変わった奴に見えるぞ。」


 シルフィに続き、イビルスにも言われてしまった。まぁ、2人はエルフと魔族で人間ではないからちゃんとした評価ではないのかもしれない。あ、でも、俺の周りの人ってじいちゃんとばあちゃんしかいないけど、2人とも変わり者だったわ。


「それより、シルフィは何故ここに監禁した?」


 鋭くイビルスを睨み付ける。

 イビルスは少し逡巡しゅんじゅんした後、口を開いた。


「まぁ、いいか。どうせ殺すし。」

「っつ。」


 すごみの効いたイビルスの声に、シルフィの身体がこわばる。


「ボスがエルフからの依頼を受けたんだよ。エルフ2人を誰も来れない場所に殺さず、封印してくれとな。」


 2人?シルフィと同じ境遇のエルフがもう1人いるのか。早く探しに行かないとな。話を聞いた限りでは、死にはしないらしいがこんな状態で監禁されたら、精神が病んでしまう。


 シルフィはイロアスの服をギュッと掴み、イビルスの話に必死に耐える。


「ところで、どうやら俺を殺したいようだな。」


 イビルスに向き直り、挑発的に尋ねる。

 シルフィの精神的にも、このくらいで話を変えるべきだろう。


「ああ、侵入者は抹殺だ。」


 だったら、ドアなんか作らなければいいじゃんかよ。

 あ~、でもこいつって強い奴と戦いたかったんか。面倒だな。


「分かった、お話はしまいとしよう。」


 俺は〈シェイド〉を胴体のところまで持ち上げ、イビルスは俺に手のひらを向ける。


「おらよ!」


 すぐにイビルスは闇属性の魔法、いや、魔族の世界では魔術というものを放ってくる。

 それを、ビームセイバー・プラズマモードで真っ二つに斬る。

 分断された魔術は、後ろのシルフィに当たる前に霧散した。


「なんだそれは、面白い剣だな。」


 イビルスは自身の魔術を分断したビームセイバーに興味を持ったようだ。


「危ないから、下がっとけ。」


 シルフィを後ろに追いやり、イビルスと対峙する。


「喰らえ。」


 〈シェイド〉でイビルスを攻撃するが、流石は魔族。いとも簡単に避けられてしまった。


「〈অন্ধকাৰ।〉!」


 あれは、〈ダークネス〉か?

 魔法と魔術という名称に違いがあれど、この2つはさほど変わらないようだな。


「〈ダークネス〉!」


 性質の似た魔法と魔術が、互いにぶつかり合い打ち消す。

 闇の刻印を発動していなければ、人間のLv99と魔族のLv78は、ほぼ同力だった。

 でもおかしいな。これほどのLv差があるのに同威力だなんて。魔力量もさほど変わらなかった気がするし……威力が軽減されているのか?


 右手にビームセイバー・プラズマモードを持って、左手にレールガンを隠し持つ。


「はあっ。」


 一気に距離を詰めて、イビルスに斬りかかる。

 斜めに胴体を斬るつもりだったが、イビルスは左手で防ぐと、俺を怪力で突き飛ばした。

 どうやら、魔族はステータスパラメーターも高いらしい。だが、あいつの左手は大部分が火傷を負った。

 すぐに体勢を立て直し、左手を突き出す。


「くらえ。」


 トリガーを素早く引くと、溜めていた電力が一気に放出され、金属弾が跳躍する。


「何!」


 イビルスは跳んでくるモノの正体を確認する前に、腕をクロスにして防御する。

 しかし、それだけで止められるのか?


「ぐっ。」


 耐え難い痛みにイビルスは顔をひきつらせる。

 前にあった右腕に弾丸は埋め込まれ、骨を砕いたようだ。しかし、貫通しないとは。太い腕だなぁ。

 まぁ、相手はだいぶダメージを喰らっているから、もうそろとどめを刺しにかかろうか。



『黄道のように円をくは、光輪の如く。

 放たれるは宇宙そらからの熱光ねっこう。』


 イビルスが痛みから立ち直る前に、対闇属性モンスターの必殺必中魔法〈ソーラーレイ〉の詠唱を始める。あいつは両腕が使えないから今のうちに再起不能にしておくか。

 なに、別に命までは奪わない。


「ちぃっ。」


 イビルスは頭上に展開されていく魔法陣を忌々しげに睨み付け、俺との距離を取る。

 しかし、常にイビルスの方へと向く魔法陣を見て察したのか、俺を攻撃することに変更する。


「〈মৰিব〉。」


 濃密な魔力でできた、紫色の攻撃魔術を発動し始める。

 しかし、詠唱途中なので、魔法で相殺することは出来ない。

 避けまくるしかないか。


 そう思ったとき、イビルスの口角がつり上がるのを見た。

 何だ、何がおかしい?

 辺りを見回すと、斜め後ろの黒い外套が目に入る。


(まさか、射線上にシルフィも!あの野郎、絶対に許さん。)


 しかし、ここで怒りに任せてはいけない。

 あのサイズの魔法だと、シルフィが纏っている、穴あき中古品の外套では全てを防ぎきれない。

 しかし、俺が喰らうと詠唱の継続が困難だし、魔法中断マジックキャンセルが起きてしまい魔法が暴走して最悪の事態になりかねない。そうしたら、イビルスとシルフィは必ず、もしかしたら俺も死んでしまうことになる。


「おらっ。」


 紫紺の魔法球は、俺とその後ろにいるシルフィに向かって飛ぶ。

 俺は脳内で〈ソーラーレイ〉のイメージを保ちつつ、なんとしてでもシルフィを守らなくてはいけないという衝動に駆られるように・・・・


(〈ウォール〉×2)


 無詠唱で魔法を発動し、イビルスの魔法からシルフィを守る。

 土壁はすぐに破壊されたが、魔法の威力もほとんどなくなり、シルフィには届かなかった。


「な、何だと。」

「違う魔法を同時発動⁉しかも、片方は多重術式。」


 イビルスは驚愕と恐れの声を、シルフィは信じられないとばかりに声を上げる。


『聖なる炎が闇を祓はらう。』


 あ~!!あったま痛い。同時発動はキツイ。けど、詠唱しないと。


「くそっ。流石にまずい。」


 構築がほぼ進み、詠唱も残り一文となった〈ソーラーレイ〉をにらみ、イビルスをそう呟いた。


 そのすぐあとに、イビルスは姿を消した。


 なっ!?

 どこに行きやがった?

【スキル】か?それとも魔法にこんなものがあるのか?

 気配は感じられないが、〈ソーラーレイ〉なら自動追尾してくれるかもしれない。

 最後の詠唱をしてみよう。


『紅あかき太陽が焼き焦がす。』


 穿うがて


「〈ソーラーレイ〉‼」



「・・・・・・・・・・・・」



 魔法陣は何も起こらない。太陽光線が発射されることもなく、音もしない。ただ、魔力が持ってかれて、光の環が造られただけとなった。

 てか、魔法陣の1枚1枚が、バラバラな方向を向いているんですけど。どーしたんだよ!自動追尾!必中必殺!

 しかも、魔力で辺りを探ってみても、どこにも魔族特有の濃い魔力は感じられない。

 もしかして、帰ったのか?『侵入者は抹殺だ。』とか言っていたくせに。

 そんな事を考えていると・・・・


「〈霧化〉した俺様を見つけることは出来ない。」


 部屋全体から、イビルスの声が響く。部屋に反響しているのか?

 残念ながら、あいつはお家に帰った訳ではないようだ。


「どこだ!どこにいる!!。」


 大声で叫ぶが、答えはない。しかも、反響もしていない。


 あいつは〈霧化〉って言っていたよな。つまりは、水蒸気になっているのか?体内の60%は水だし。

 たしか、状態変化で1番体積が大きいのは気体の状態だ。ってことは、気体化してこの部屋全体に霧散しているのか。そうだとするならば、さっきの声と魔力が見つからないのことに説明がつく。


「だったら、露点まで下げれば液体になるのか。」

 

 聞かれないように小さく呟いた。

 よし、気温を下げるぞ。


「〈ブリザード〉」 「〈アイシクルピラー〉×2」


 吹雪を起こして、氷柱を建てる。

 まぁ、無造作に魔法を連発しているからイビルスは俺があいつ自身を見失っているのだと思うだろう。

 そうしている内に背後に迫ってきたりしているかもな。


 地下100層ボス部屋よりも狭いこの部屋の気温は急激に低下していった。

 イロアスもイビルスも気づいていないが、イロアスの2m後ろあたりに大きな水の塊が浮かんでいることをシルフィは見ていた。


 純水には電流が流れないから、電解質でんかいしつが必要だな。といっても、塩化水素(HCl)や水酸化ナトリウム(NaOH)とかは持っていない。あるとしたら・・・・・あったわ!!!食塩。

 食塩の正式名称は塩化ナトリウム(NaCl)で有名な電解質の1つだ。

【アイテムボックス】から、食塩の入った袋を取り出して、左手に持つ。そして、右手にはレールガン。すでに魔力充填を開始している。


 そのレールガンの砲身部分を鏡代わりに後ろを見ると・・・・


「いた。」


 後ろに漂う無色透明の物体を目に収め、密かに俺は呟く。

 魔力充填は完了した。


 次の瞬間、袋を後ろに投げ、すぐに振り向くとレールガンで袋を撃った。


 食塩は爆散ばくさんし、浮遊していたイビルスに溶け込む。


「なに、まさか俺様が見えてっ。」


 イビルスは気付くがもう遅い。

 すでに電解質が溶け込み、電流が流れる状態になっている。

 そして、魔法は構築済み。


「〈テラボルテージ〉!」


 レールガンの電力として使っていたが、これ単体でもそうとう強い。名前のとおりに電圧が1TV《テラボルト》以上あるならば、雷よりもだいぶ強い。雷は確か3万ボルトくらいだ。それに対し、1TVは1000000000000ボルト=1億ボルトとなる。どっかの○カチュウよりも強いな。


「うがあぁぁぁあおぁあぁぁ!」


 イビルスの絶叫が響き、ドサリと音がして、地に伏せたイビルスが姿を現す。

 どうやら、〈霧化〉が継続出来なくなったようだ。


 そこに、ずいぶん前から獲物を待ち構えていた光の矢が飛来する。

 ザクザクッとイビルスのアーマーを貫き、身体に穴を開け、血だまりをつくる。

 魔族の血も赤かった。なんて

 合計20本の太陽光線と超高電圧の雷は、イビルスを瀕死に追い込んだ。


「かはっ。お前、何故分かった?」


 皮膚は焦げて黒くなり、服からはプスプスと煙が出ているが、まだしゃべる余裕があるようだ。


「お前の発言が2つのヒントをくれたからな。自分で自分の首を絞めたんだよ、イビルス。なぁ、知っているか?純水は電気を通さないが食塩などの電解質を溶かすと、電流が流れるんだよ。中学理科の範囲を実戦しただけだ。」


 まぁ、高校の授業は少ししか聞いていないから、これくらいしか出来ないんだよな。もう授業を聞くこともないし。


「何を言って・・・・。」


 イビルスは必死に顔を持ちあげるが、まだ体には〈テラボルテージ〉の余韻が残っているのか動かせていない。


「お前、本当に人間か?」


 随分と怯えられてしまったようだが、あいにくとまだ人間だぞ。


「一応、まだ人間のつもりだ。生まれはこの世界線ではないし、1回本当に死んでいるけどな。」

「ほとんど人間じゃあねえよ。」


 そう言うと、イビルスは立ち上がった。想像以上に魔族はタフらしい。


「〈অন্ধকাৰ〉。」


 あれは、さっきの〈ダークネス〉魔術バージョンか。俺も刻印を発動して〈ダークネス〉を放ってみるか


「〈ダークネス〉。」


 さっきのよりも、色も魔力濃度もずっと濃い。

 2つの闇の球体がぶつかるが、すぐさまイビルスの魔術は俺の魔法によって一瞬で消え去る。それに対し、俺の魔法は何もなかったかのように、イビルスへと直進する。


「おわっ。」

「くそっ、これでもくらいやがれ!!」


 あいつは慌ててそれを避けて、すぐに魔術を撃ってくる。


「〈অন্ধকাৰৰ বৰ্চা〉」


 あれは、ダークランスか?属性付与魔法だな。しかも、3連の多重術式だ。魔族もこんなに高度な魔法を使うのか。

 おい、待て。1本は完全にシルフィを狙ってやがる。そろそろ俺もキレるぞ。


 いや、キレたわ。こいつ始末しよう。絶対に。


「〈ダークランス〉×3!」


 再度、刻印付きの魔法を放つ。通常のダークランスよりも、先は鋭く尖り、長くなっていた。

 あいつの魔術にぶつけるように魔法を放ったため、3本の矢同士はお互いに衝突し、一瞬でイビルスの矢が砕け散る。

 そのまま3本のダークランスは、イビルスへ深々と突き刺さった。


「がはっ。あ、悪魔。」


 最後にそう言うと、イビルスは静かになり、動かなくなった。

 右目に刻印があるだけで悪魔呼ばわりなんて、失礼だな。お前の見た目の方が、だいぶ悪魔に近いだろ。


「【称号】[魔族殺し]を獲得しました。」


 お、おう。別にいらなかった。その【称号】人殺しと変わらないじゃん。ただのヤバいやつって思われちゃうじゃん。

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