箏の音と男子生徒

 放課後、弓道場へ赴くと、蝉の声に混ざってまたあの箏の音が微かに聞こえた。


 その音に惹かれ自然と音の方へ足が進んだ。何の曲かは分からないが清冷の響きはどこかで聞いたことのあるものだった。

 薄暗い廊下を歩いていると、その音は北館から聞こえているようだった。


 にわかに光が差し込み、渡り廊下に差し掛かった。外を見ると杜若色の空が広がっていた。音が大きくなってた。あともう少しでつきそうだ。鼓動が早まっていくのがわかる。


 北館に入ると本館の影にあるからか、涼しかった。蝉の音が小さくなり、静かな空間に箏の音が響き渡る。

 北館には主に副教科にまつわる専科教室がある。一階には芸術にまつわる教室、二階以上には茶室や部活動のために作られた部屋がある。


 音は一階からだろうか。音楽室の隣に畳の部屋がある。きっとそこからだ。何に使っているのかいつも不思議だったが、きっと箏曲部が使用しているのだろう。


 音楽室の前を通り、ついに畳の部屋の前まできた。換気をしているのか襖は一面に開け放たれている。道理でよく音が通る訳だ。箏の音が的中の音のごとく響くことを私は初めて知った。


 部屋の中は燦々とした陽で満たされていた。眩い光に目を細めた。全開にされた窓からは中庭の奥に弓道場が見えた。部屋の中に入れば矢道も見えそうだ。


 廊下を少し進むと、先ほどまでは隠れていたのか、空に向かって箏を弾く男子生徒が現れた。微かに口から驚きの声が漏れた。その男子生徒はあの金髪の生徒だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る