男子生徒との再会

 そうか彼の音だったのかと、腑に落ちた。


 清々しい風に夏至の香りが舞い上がる。箏の音は流れる水のように奏でられるのだ。暫し廊下の壁に寄りかかり目を瞑った。こんな美しい演奏を聞いたことがない。もう、その音しか聞こえなくなっていた。


 はたりと演奏が止まった。目を開くと、男子生徒がこちらを振り返っていた。見開かれた目は、箏の音くらい綺麗だったが、男子生徒はやはり今にも消えそうだった。


 男子生徒が気まずそうに目を逸らしたのを見て、自分が彼を見つめていたことに気づいた。男子生徒は何かを言いかけたが、口を閉じた。


 居ても立ってもいられないというように襖を閉めようとしたので、私は思わずその手を掴んだ。彼の手は折れそうなくらい細かったが、身長は私よりも高いせいで見上げなければならなかった。


 突発的な行動に自分でも驚きながらも、次の行動が思いつかない。どうしてか、何か言わなければいけない気がした。私も黙り、彼も黙っている。沈黙がむずがゆく思え、どうにでもなれと思ったことを素直に口にした。


「また、また来てもいいですか。」


心地よい風が吹いた。彼は嬉しさと恥ずかしさが混ざったような顔をして、おぅと頷いた。初めて聞く彼の声はやさしかった。

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