祖母の死
祖母の夢を見る日は、決まって蝉の鳴く暑い日だった。
私の弓道の師匠でもあった祖母は、六年前、私が十歳の時に帰らぬ人となった。病死だった。今でも鮮明に思い出せる。
八月、冷房の聞いた病室でうるさいくらいの油蝉の鳴き声を聞きながら、消え入りそうな声で祖母は言った。
病状が悪化し一年前から入院していた祖母の死期がそう遠くないことは分かっていたが、いざその時になるとどんな顔をしたらいいのか、分からなかった。
「いい、澪は力む癖があるの。だから、息を吐くのよ。」
祖母は時折苦しそうな声を上げた。幼いながらも、それが最期の言葉であることはわかって私は強く祖母の手を握った。皺だらけの手は力を入れるとすぐに折れそうだった。
「ダメよ。そんなこと言っちゃ。おばあちゃん、まだ生きるんでしょ。次の大会、見にくるって行ってたじゃん。」
そう言ってなく私を、祖母はあの大好きな笑顔で見つめた。話す体力がないのか、祖母は黙ったままである。その沈黙を蝉が掻き消す。
「おばあちゃんは、澪が大好きよ。」
と呟いた。心肺停止を告げる電子音は、侘しく響いた。仕事の忙しい両親は立ち会えず、病室には私と主治医しかいなかった。
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