5月

箏の音

 大型連休あけ、クラス大半は浮かない顔をしている。

 それは空も例外でない。窓から見上げれば紺碧の空に薄く絹鼠色の雲がかかっていた。綺麗な紺碧を見せてくれればいいのに。歯痒い。


「お前ら、連休明けで辛いと思うが、中間まで三週間切っていることを忘れるな。しっかりと勉強するように。じゃあ以上。」


 いつもより終礼が短いのは皐月病のせいなのだろうか。日直の号令がかかり、生徒は各々の行くべきところへ散っていく。私も弓道場に行こうと思い鞄を持った。


 弓道着に着替え、おろしていた髪を結ぶ。弓道への少しもの敬意だ。


 耳を澄ますと、どこからか箏の音が聞こえてきた。それは実に綺麗で優しい、玲瓏たる響きだった。が、儚い風を呼んだ。


 私も皐月病にかかっていたのかもしれない。春の天気は変わりやすいと言う。弓道場から見る空は綺麗に晴れ渡っていた。こんな日の射は、決まって完璧のものだ。射たものは全て的中。それも、中白にだ。


 八月に今年初めて参加する大会がある。頑張らないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る