普通でない自分
結果は先ず先ずの出来だった。乙矢もいい射を打てた。
しかし、今日の射はいつもの自分の射ではなかった。いつもなら焦らなくても、完璧に射れたのに。帰ったらもっと練習だ。
表彰式が終わり、弓道場から出たところで、
「れ〜いちゃんお疲れ様」
と肩を叩かれた。千鶴だ。千鶴の両親は私の両親の専属執事で、いづれ千鶴も私のそれになるらしい。
千鶴は人なつっこそうな笑顔で言った。
「帰ったらもっと練習しないと、って思ったでしょ。」
「ええ。こんな結果、練習不足のあらわれよ。」
そう言って私は三位の賞状を掲げた。千鶴は不服そうに私を眺めたが、私は知らぬふりをした。
「千鶴、早く帰ろう。練習する。」
「では次です。音宮ホールディングスの音宮社長は、今日の関係者会議で––––」
学生のにしては広すぎる部屋に虚しくテレビの音が響く。大きすぎる家も、弓道場がある家も、どれも普通じゃない。父の顔がテレビに映る。私は電源を切った。
大企業の社長令嬢。それが私に貼られたレッテルだった。それにふさわしい人になろうと懸命に努力した。が、努力すればするほど周りの友人は離れていった。弓道の師匠でもあった祖母も数年前に他界。両親は仕事で駆け回り、一人でいる時間が多くなった。そんな中、唯一千鶴とはずっと気のおけない仲だった。
私は緑茶を飲み息をついた。冷たい緑茶は火照った体を冷やした。
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