本編

4月

新学期の朝

今日は高校の入学式!いっけなぁい、ちこくちこく!ドン。あ!ごめんなさぁい!うわぁイケメン。


 なんて、布団の中でそんな妄想をしてみるが、こんな話は少女漫画の中での話であって、現実では起こり得ない。何て言ったって、中高一貫校の入学式。高校編入生は受け入れているが、そんな生徒は少ない。カーテンの隙間から暖かい春の光が差してくる。

「春暁暁を覚えず。春の二度寝も風流のうち。」

そう呟いて寝ようとすると、ドアが勢いよく開いて、体を揺さぶられた。

「そんなわけないでしょ!澪ちゃん起きて。遅刻しちゃう。」

千鶴一家とは寝食をともにしている。千鶴は毎朝私を起こしてくれる。

「あぁ千鶴か。今日は何の日だっけ。」

寝ぼけ眼で聞く。

「入学式です〜!澪ちゃんは新入生代表で挨拶する予定です〜!」

千鶴はぷんぷん起こりながら、カーテンを開けた。


 私も立ち上がり高校の制服をクローゼットから出す。新入生代表の挨拶を口に出してみる。

「麗かな春の日。私たち第一〇九期生は、この佳實学園に入学することとなりました。ねぇ、千鶴。うちの学校、けいじつって名前珍しいよね」

千鶴に問いかけてみたが、余程急いでいるのか、横目に私を見ただけで

「知らないよ。もう、早く着替えて。」

と言って部屋を出て行った。


 千鶴はお節介なお母さんみたいだ。私は言われた通り制服に着替えた。初めて袖を通す高校のブレザーの生地はまだ新しくて、その気心地に襟を正した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る