第1話 固有スキル【吸収】

 俺は成功した。異世界転生を四人の友達と一緒に成功した。今までの人生の中で最も楽しい瞬間だった。死ぬことを楽しむなんて、側から見ればイカれていると思うが、異世界転生を果たした俺たちはそれを願っていたんだ。

 転生なんて夢物語。それは実際の世界の歴史を辿ったとしても、あくまでも人々の信仰で留まり、実際にそれがあったという話は存在しない。

 しかし俺たちは成功した。これを誰にも教えられないというのがとても悲しい。でも友達同士で教えられるのはなによりも嬉しかった。


 俺は一人では無い。仲の良い人間と転生に成功したのだと。


 俺たちは大いに喜び合う。叫んで、笑って、楽しむ。自分達が死んだという事実はとうに忘れていた。


 そう俺たちが叫んでいると、突然威厳のある低い声が全身を硬直させた。それは恐怖では無い。ただ単純にその声自体に身体を動かなくさせるかのようで、俺の体はビクともしなかった。


 気づけば俺の目の前には歳は50超え、顔に皺が深く刻まれ、全身は純鉄色に光を反射させる重々しい重鎧を構えた男がいた。恐らく王だろうか。


「静まれ! ふぅ……。うむ。どうして我々の異世界召喚にここまで喜ぶ者が現れたのかかなり疑問だが、それは追々としよう。

 まずは転生者よ、よくぞ我が王国エタンセルへ参った。これよりお主らは『勇者』と任命する。

 急な申しで済まないが、貴殿らの力を持って我が王国。いや、世界を救ってほしい」


 正にテンプレ展開。きっと俺はこれから魔王を倒しに行けと言われるのだろう。ならば望むところだ。俺たちは望んで異世界転生したんだ。それなら異世界でどんな死に方しようが今更本望じゃないか?

 だが、王から放たれる言葉は魔王なんて物では無かった。


「我が王国では神ゲルニクスを信仰している。ゲルニクスは守護神であり、今までにエタンセルを含め、全世界を守護、守ってきた。いや、見守っていたという方が正しいだろう。

 神ゲルニクスはある日、啓示にてこう仰った。

 『これは我より最後の啓示である。貴様らは神の意思に反し世界を穢し過ぎた。よって我はこの世界を破壊し、新たな世界を作る。

 人間達よ、我は最後の慈悲を与えん。猶予は10年。その間に貴様らの力で抗ってみせよ。

 神の意思に反するならば、我が計画も反してみせよ。さすれば世界の崩壊は止まるだろう』

 だと。つまりだ。もはやこの問題は我々の知識や技術ではどうにもならないと判断した。だから、貴殿らの力を、知識を借りたい。神による世界崩壊からどう逃げれば良いのか。どうやって止めれば良いのか。我々をどうか助けてほしい」


 あまりにも予想外な展開に俺は困惑する。要はそれは今まで信仰していた世界の神を殺せということだろう。こんな展開、今まで見てきた小説には無かった。完全にオリジナル展開。つまり、知った記憶や知識では切り抜けられない問題。

 世界のことを1から知り、皆んなと協力しなければ決して生き残ることも出来ない。


 その展開は俺たちは大いに奮い立たせた。今まで見た聞いた物語ではなく、これから俺たちの物語が始まる。自分達で物語を作り上げていくのだと。


「いいでしょう。俺は王様の意思に全力で答えます。多分死ぬかと思いますが、拒否はしません」


「おうよ! 俺はどんなことだってやるつもりだったぜ!」


「やってみたい……」


「やってやろうじゃない! いくらでも知識くらい貸すよ!」


「ええっと……ふつつか者ですが、やらせていただきます……!」


「おぉ……なんという威勢の良さ。我ら我が名を掛けて感謝する! ならば早速だが、貴殿らの力を見せて頂こう。どんな結果でも構わない。もし何も力を持っていなければどんなサポートでもしよう。

 では貴殿たちよ、自らの声で『ステータス』と唱えよ。さすれば己の力が脳裏に浮かび上がるだろう」


 ついに来た。ステータスのお時間だ。これで俺たちが転生によってどんな力を貰ったのが分かる。未だにどうして転生者は特別な力を得られるのかが分からないが、本当に運がいい時は1人で世界を救える可能性のある力に目覚める事がある。

 即ちチートスキル。世界の均衡、理を崩壊させかねない化物染みた力の総称。それがチートスキルだ。

 でもそれはあくまでも小説の中のご都合展開に過ぎない。チートでないと1から力を付けなくてはならなく、世界を救える力を得るまでに凄まじい時間がかかるからだ。

 勿論1から始まる物語を否定している訳ではない。しかし作者によってはゆっくりまったりより、サクサクテンポの方が良い思う人もいる。だからそんなご都合でリアルも全てねじ曲げるチートスキルが生まれるのだ。


 そうしてそれぞれ皆んな『ステータス』と唱え始める。最初は晃。


「お、おぉ!? 超怪力? 自身の力を極限にまで強化し、破壊的な力を引き出す。ただし魔法に対して弱点効果を得る。なんだこりゃ?」


 超怪力。絵面だけならきっと凄まじい『力』なのだろう。そう考えていると、王は晃に対して兵士を突き出した。いや、兵士ではない。そこにはまるで生気は感じられず、ただただ命令で動く騎士のようだった。


「安心せよ。これは訓練用の魔導兵である。魔法の力だけ動く案山子のような物だ。戦力とは到底呼べない。とても力の弱い兵士だ。さぁ、これで貴殿の力を示してみせよ」


「分かった!」


 晃は魔導兵に向かって握り拳を作り、腰を低く落とし、殴る構えを取る。


「行くぜ! おらぁ!!」


 晃は床を蹴ると、黄金に装飾された高そうな床が勢いよく砕け散り、次の瞬間、俺が瞼を開いた時には晃の拳は魔導兵の鎧に達しており、そこから爆風と思わしき衝撃波と耳を劈く轟音が鳴り響く。

 そして魔導兵を見れば、それは最早鉄屑ではない。砂のように消滅していた。


「こ、これは……何という力。うむ。良い。では次の力を見せて頂こう」


 次は塁の出番。塁は俺にも辛うじて聞こえるほどの小さな声でボソリとステータスと呟く。


「……千里眼。僕の目はあらゆる全ての事象、結果が予測出来る。正確率は98%。不完全能力。しかし、残り2%は僕自身の直感で補える。ただし、予測限界域は24時間である」


「ふむ。ならば魔導兵に攻撃させよう。武器は刃引きしておる。痛みはあるが相当な力でない限り怪我をすることは無いだろう」


「うん」


 そう言えば、塁の前に立つ魔導兵は勢いよくはしりだし、鉄剣を塁に向かって振り下す。そうすれば塁は魔導兵の攻撃をギリギリまで寄せ付けると当たる直前で難なく回避した。それを何度も繰り返す。

 魔導兵は度々攻撃パターンを変えつつ色んな攻撃方法を試すも全て塁に避けられていた。


「見切った……」


 塁はそれを繰り返し、突然一言呟くと、凄まじく速く、まるで全てが計算されていたかのように無駄の無い完璧な動きで、魔導兵の急所をすべて拳で突くと、一瞬にして魔導兵はバラバラと身体を崩壊させ静かになった。


「素晴らしい……これは我が王国に大いに役立つ力だ。軍事として活躍できるだろう。では次だ」


 次は香織。ウキウキとしたテンションでステータスと大声で唱える。


「来た来た来たー! んー? 万能属性? えーと、世界に存在する凡ゆる魔法。全ての魔力に関する力を行使できる。ただし物理攻撃に対して弱点効果を得る。だって!」


「おぉ……全ての魔法だと? それはまた凄まじい力だ……」


 香織は魔導兵に倒して手をかざすと次の瞬間、香織の手の平から、マグマのようなドロドロとした赤いビームを発射する。

 魔導兵は一瞬にして溶解。蒸気を発しながら蒸発した。


「これは超級火炎魔法『プロミネンスブレイズ』……! 彼女を敵に回せば軍でも勝てんわ。では次を見せてくれ!」


 次は詩織。相変わらずおどおどしながらステータスと勢いよく唱える。


「えーとえーと、完全治癒? あらゆる怪我・病気・致命傷さえも全て完全回復が可能。ただし死者を蘇生することは出来ない……」


「ほう、完全治癒能力。これはなかなかに期待が出来るな。見せなくとも分かるだろう。では次では最後かな?」


 最後は俺の番。俺はステータスと唱えると脳裏に一つ言葉とそれを説明する文章が浮き出て来た。しかし俺はその文章に首を傾げる。書いてある事が分かるには分かるが、どんな能力なのか全く予想が付かない。


「俺ですね。ステータス。えーと、吸収。対象のあらゆる力を吸収し我が物とする。吸収量に限界は無いが、吸収量に応じて脳への負担が増加していく。え、なにこれ。全く予想できないんだけど……」


「まぁ、良い試せ」


 俺は魔導兵に手をかざす。すると、俺の手から竜巻のような何かを吸収する風が俺の中へ吸収されることが分かる。そして一瞬にして魔導兵の姿は消え、辺りはしんと静まる。

 俺の体には特に異常は感じられない。が、そう思った瞬間に激しい頭痛が襲う。


「がっ……!? な、何だこれ……うぅ……! はっ!」


 頭がかち割れるような頭痛から突然と解放されると、俺の腕が剣へと変形していた。それは肉では無い。材質も重さも剣そのものだった。

 そう、俺が覚醒した能力とは、相手を即座に吸収し、その一部を我が物に。つまり相手の能力と武器さえも奪うことが出来る力であった。


「なんと恐ろしい……相手の力を奪うならまだしも変形するとは正に化物ではないか……。ぐぬぬぬ……どんな結果でも良いと言ったのは我だ。しかし、無制限の吸収能力に、変形能力。貴殿は我が国では危険だ。済まないが、貴殿を勇者に入れることは出来ぬ。

 勇者は誰にとっても信頼でき、憧れの存在なのだ。しかしその姿をみて国民はどう思うか。

 魔物と同様。化物だと非難するだろう。それは勇者にはあってはならないのだ。

 本当に申し訳無い。その力は我が国へ置いておくことはできぬ。よって貴殿は国外追放と処す。しかし安心せよ。国に入れることは出来ないが、必要な物があるならいつでも届けよう」


「は、はい……」


 俺は固有スキル『吸収』があまりにも歪で、化け物のような姿に国民の恐怖は免れないとして、勇者には相応しく無いとして、俺は国外追放となった。


 だが俺には悔しさは感じられなかった。理由はみんなが付いてきてくれたからだ。勇者パーティと俺1人という区別になってしまうが、一緒に行動は出来なくとも同行だけなら許可された。

 つまり、勇者の一員では無いとだけ思われれば良いとのこと。


 しかし俺も勇者達と目的は同じ。俺はこの能力を活かして、必ず世界を救って見せると決意した。

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